「歳を重ねても、頭のキレは若い頃と変わらない」
そんなふうに年齢を感じさせない人を見ると、「もともとの才能や特別な脳の持ち主だから?」と考えてしまいがちです。
しかし近年の国際共同研究により、誰でも実践できる“脳を若く保つ活動”が明らかになってきました。
キーワードは、創造的な活動――つまり、ダンスや絵画、音楽、あるいは戦略ゲームなど、「自分で表現したり工夫したりする趣味」です。
しかもこれらの活動が、脳の“見た目年齢”そのものを若返らせていたのです。
「クリエイティブな趣味は身体にも心にも良い」とはよく言われますが、実はそれが脳の老化スピードまで変えているとは、驚きではないでしょうか。
目次
- 脳の「老化」は抑制できる活動とは?
- なぜ創造的活動は脳を守るのか?
脳の「老化」は抑制できる活動とは?
「脳年齢」は単なる感覚ではなく、AIを使った科学的な指標で測定できる時代になりました。
国際的な神経科学チームは、世界13か国・約1400人を対象に、専門ダンサー、音楽家、画家、ゲーマーなどさまざまな「創造的活動」の経験者と、同じ年齢・性別・学歴で創造経験のないグループを比較しました。
被験者の脳活動を「脳磁図(MEG)」や「脳波(EEG)」で記録し、AI(機械学習)が脳の“見た目年齢”=「脳年齢時計」を推定します。
もし実年齢より脳年齢が若ければ、脳のネットワークが効率よく機能している証拠です。
結果は驚くべきものでした。
たとえばタンゴダンサーの脳は、実年齢よりも平均で7年以上も若い脳年齢を示しました。
音楽家やアーティストも5〜6歳若く、ゲーマーでも約4歳若い脳年齢が観察されました。
しかも「たった30時間だけ」戦略ゲーム(StarCraft II)を練習しただけの初心者でも、脳年齢が2〜3歳若返る効果が見られたのです。
この結果は「クリエイティブな活動に年齢や才能は関係ない」という事実を裏付けています。
ダンスでも絵でも音楽でもゲームでも、どの分野でも創造的に頭を使えば、脳のネットワーク全体が活性化し、若さを保つのです。
特に集中力や学習力に関わる脳の部位は年齢とともに衰えやすいですが、創造的な趣味を続けることで、その連携や柔軟性が強く保たれることもわかりました。
なぜ創造的活動は脳を守るのか?
この研究で特筆すべきは「創造的な活動が文化的・心理的な価値に留まらず、生物学的な脳の健康にも直結する」という新しい視点です。
これまで「芸術」や「創造性」は、科学とは遠い“神秘的な領域”と見なされがちでした。
しかし脳科学の最前線では、創造的な趣味や芸術活動が「脳の回復力(レジリエンス)」を高め、加齢による変化やストレスに対する“防波堤”となることが示されつつあります。
なぜ創造性が脳を守るのでしょうか?
研究チームは、AIだけでなく「生物物理モデル」というバーチャル脳も活用しました。
このモデルでは、脳のつながりや活動がどのように変化するかを物理的ルールで再現できます。
分析の結果、創造的活動は脳内の重要な領域同士の通信をより効率的にし、情報処理の“高速道路”を新設・拡張するような効果をもたらすことが明らかになりました。
つまり、ただ知識を覚えるだけでなく「自分なりに考え、作り出す」という体験が、脳の老化を食い止める「脳の筋トレ」になるのです。
創造的な活動は誰でも始めることができます。
特別な才能や道具がなくても、ダンスや絵、音楽、あるいはデジタルゲームでもOKです。
何歳から始めても、効果は十分に期待できる。この発見は、今後の教育や健康寿命の延伸、超高齢社会への新しいヒントとなるでしょう。
参考文献
One Type of Activity Is Particularly Effective at Keeping Your Brain Young
https://www.sciencealert.com/one-type-of-activity-is-particularly-effective-at-keeping-your-brain-young
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
 
  
  
  
  