背中に「帆」をもつ新種恐竜を発見、1億2000万年前に実在

イギリス・ワイト島で、背中に大きな「帆」を背負った新種の恐竜化石が発見されました。

この恐竜は「イストイオラキス・マッカーサレイ(Istiorachis macarthurae)」と命名され、約1億2000万年前の白亜紀前期に生息していたことがわかっています。

その奇妙な姿は、クジャクの羽やバイソンのコブのように「誇張された特徴」であり、仲間に自分をアピールするために進化した可能性が高いと考えられています。

研究の詳細は英ロンドン自然史博物館(NHM)により、2025年8月21日付で科学雑誌『journal Papers in Palaeontology』に掲載されました。

目次

  • ワイト島に眠っていた新種恐竜
  • 帆の役割は何だったのか?

ワイト島に眠っていた新種恐竜

今回の発見は、ロンドン自然史博物館とポーツマス大学の研究チームによる調査で明らかになりました。

研究を率いたのはNHMの古生物学者、ジェレミー・ロックウッド博士で、彼はワイト島の「ウィールデン層」と呼ばれる地層に残された化石を詳細に解析しました。

標本番号「MIWG 6643」として発見された骨格化石は、部分的に保存されたもので、頚椎や背椎、尾椎、骨盤の一部が含まれていました。

調査の結果、この恐竜化石は既知のイグアノドン類と似ているが、異なる特徴を持つことが判明し、新属新種として記載されました。

こちらが新種の復元画像です。

新たにつけられた「イストイオラキス・マッカーサレイ(Istiorachis macarthurae)」という名前の由来もユニークです。

「Istio」はギリシャ語で帆、「rachis」は背骨を意味し、まさに背中の帆を象徴しています。

そして「macarthurae」は、ワイト島出身の偉大な航海士デイム・エレン・マッカーサーに捧げられています。

彼女は2005年に世界一周単独無寄港航海の最速記録を打ち立てており、この偉業が恐竜の命名に刻まれました。

イストイオラキス・マッカーサレイは、体高がおよそ人間の大人以上で、体重は1トン前後に達したと推定されています。

背椎の神経棘は通常の4倍以上に伸びており、背中に大きな帆のような構造が形成されていたと考えられます。

帆の役割は何だったのか?

恐竜や古代生物の中には、スピノサウルスやディメトロドンのように「背中の帆」を持つものが知られています。

しかし、その役割については長年議論が続いてきました。

従来は「体温調節装置」や「脂肪貯蔵庫」といった実用的な説が唱えられてきましたが、今回の研究ではその可能性は低いとされました。

なぜなら、血管が集中する帆は攻撃を受ければ致命的な出血を招き、捕食者にとって格好の標的になってしまうからです。

代わりに有力視されているのが、性的選択や種内シグナルとしての役割です。

つまり、クジャクのオスが大きな尾羽を誇示するように、イストイオラキスの帆も仲間や繁殖相手に自分を示すための「視覚的なアピール」だった可能性があります。

群れで行動するイグアノドン類において、帆は仲間同士の識別や捕食者への威嚇としても機能したかもしれません。

さらにチームは、イグアノドン類の進化史を系統解析によって再検討しました。

その結果、神経棘の伸長はジュラ紀後期に始まり、白亜紀前期には広く定着していたことが示されました。

つまり、背中の帆は一部の恐竜だけの特殊な形質ではなく、当時の環境や社会的行動に深く関わる重要な特徴だったのです。

イストイオラキス・マッカーサレイの発見は、恐竜が単なる巨大な爬虫類ではなく、仲間や異性との関わりの中で多様な姿へと進化していったことを物語っています。

「進化は時に実用性よりも派手さを選ぶ」と研究者は述べています。

クジャクの尾やシカの角と同じように、恐竜もまた自分を誇示するために大胆な形態を手に入れていたのかもしれません。

今後さらに化石が見つかれば、背中の帆がどのように使われていたのか、より明確にわかるでしょう。

1億2000万年前の大地に生きたこの奇妙な恐竜は、私たちに進化の不思議さと、自然が生み出す「無駄に見えて無駄ではない」美しさを教えてくれます。

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参考文献

New sail-backed dinosaur species unearthed on the Isle of Wight
https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2025/august/new-sail-backed-dinosaur-species-unearthed-isle-of-wight.html

Retired doctor discovers new dinosaur species deep in a museum archive
https://www.popsci.com/science/new-fin-back-dinosaur/

元論文

The origins of neural spine elongation in iguanodontian dinosaurs and the osteology of a new sail-back styracosternan (Dinosauria, Ornithischia) from the Lower Cretaceous Wealden Group of England
https://doi.org/10.1002/spp2.70034

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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