イングランド南部ホードルクリフ(Hordle Cliff)で、40年以上前に見つかっていた古代ヘビの化石。
これがポーランド科学アカデミー(PAN)の最新研究で、ついに「新種」と判定されました。
新種ヘビに新たに与えられた学名は「パラドクソフィディオン・リチャルドウェニ(Paradoxophidion richardoweni)」。
ヘビの進化史をひもとく上で、重要なパズルのピースになると考えられています。
研究の詳細は2025年11月7日付で科学雑誌『Comptes Rendus Palevol』に掲載されました。
目次
- 古代と現代の特徴が入り混じった「モザイク型」
- 水環境にも適応していた?
古代と現代の特徴が入り混じった「モザイク型」
1981年、イングランド南部ホードルクリフの断崖で、小さなヘビの脊椎骨が発見されました。
当時は正体不明のまま博物館に保管されていましたが、近年のCTスキャン技術により、研究者たちはこれが未発見の新種であることを突き止めました。
このヘビは約3700万年前、現在よりはるかに温暖で多様な動物たちが暮らしていたイングランドに生息していたと考えられます。
【新種ヘビの復元イメージがこちら】
名前の由来「パラドクソフィディオン」はギリシャ語で「逆説のヘビ」。
実際、その骨格には太古のヘビの特徴に加えて、現代ヘビの様々な特徴が入り交じっており、“モザイク”のような進化の途中段階が垣間見えるのです。
詳細な研究によると、本種はカエノフィディア類(今のほとんどのヘビが属する最大グループ)の最初期に現れた一種とされ、その進化の枝分かれの様子を知るうえで極めて貴重な存在です。
骨は非常に小さく、体長は1メートルにも満たないと見られますが、その背骨の形からは現生の「ヤスリヘビ科(Acrochordidae)」とも驚くほど似ている点が指摘されています。
水環境にも適応していた?
ホードルクリフは、始新世と呼ばれる約5600万〜3400万年前の地層が露出する場所です。
当時のイングランドは今よりも赤道に近く、気温も高く、大気中の二酸化炭素濃度も現在よりかなり高かったと考えられています。
そのため、ヘビをはじめとする爬虫類やカメ、ワニの仲間、哺乳類まで、多彩な生物がこの地を支配していました。
ヘビ化石の研究は19世紀のリチャード・オーウェンによるものが嚆矢(こうし)となり、大型の水棲ヘビも発見されてきましたが、今回のパラドクソフィディオンは体が非常に小さく、その正体は長年謎のままでした。
CTスキャンで解析した椎骨は、現生のヤスリヘビと形態が似ているため、パラドクソフィディオンも水辺で生活していた可能性が考えられます。
しかし、頭骨が見つかっていないため食性や生活スタイルについては断言できず、「ヘビ進化の最初期にどのような多様化が起きたのか」をめぐる新たな議論の材料となっています。
チームは今後も博物館の化石コレクションから未記載のヘビを調査する予定で、さらなる“進化の謎”解明が期待されています。
参考文献
‘Weird’ new species of ancient fossil snake discovered in southern England
https://phys.org/news/2025-11-weird-species-ancient-fossil-snake.html
元論文
A new peculiar early diverging caenophidian snake (Serpentes) from the late Eocene of Hordle Cliff, England
https://sciencepress.mnhn.fr/fr/periodiques/comptes-rendus-palevol/24/25
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

