糖尿病の人は「熱中症リスクが1.4倍」に、全国256万人のデータから判明

健康

糖尿病は、実は“暑さに弱い体”をつくってしまうのかもしれません。

名古屋工業大学の研究チームは、日本全国256万人分の保険データを解析したところ、糖尿病患者はそうでない人に比べて熱中症になるリスクが約1.4倍にもなることがわかりました。

さらに年齢別で見ると、働き盛りの30~59歳の男性で特に顕著で、リスクが最大1.7倍に跳ね上がっていたのです。

この研究は、私たちが思っている以上に「糖尿病と暑さの関係」が深いことを示しています。

目次

  • 糖尿病と熱中症リスクに関連性
  • 「気温30℃以下」でも油断できないリスク

糖尿病と熱中症リスクに関連性

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Credit: canva

糖尿病は、血糖値のコントロールがうまくできなくなる病気ですが、その影響は体温調節機能や発汗機能にも及びます。

これまでの研究でも、糖尿病患者は「熱波」の時期に死亡率が高くなる傾向があることが報告されていました。

血管や神経がダメージを受けやすく、暑さへの反応が鈍くなることが要因とされています。

さらに糖尿病によって自律神経の働きが乱れると、発汗が遅れたり、うまく体温を下げられなかったりする状態になります。

つまり、体の内側から「暑さに鈍くなってしまう」のです。

これまでの研究は、特定地域や小規模なデータに限られていましたが、今回の研究では全国47都道府県、7年間のデータを用いた大規模解析が行われました。

調査では、2016年から2022年までの約256万人分の保険請求情報(レセプト)を用いて、糖尿病患者とそうでない人の熱中症リスクを比較。

その結果、糖尿病患者は、そうでない人に比べて熱中症にかかるリスクが明確に高いという数字が導き出されたのです。

糖尿病患者は熱中症リスクが1.4倍に上昇

全国規模の保険者データベースを用いた解析から、糖尿病群は非糖尿病群と比べて1.4倍の熱中症リスクを有することが判明しました。

30~59歳の男性に特に高リスク:最大1.7倍

30~59歳の就労世代の男性ではリスクが最大となり、熱中症リスクが最大1.7倍に跳ね上がっていました。屋外作業や職場での暑熱暴露が要因として考えられます。

またこれらのリスク上昇は、猛暑日でなくても現れていたのです。

「気温30℃以下」でも油断できないリスク

驚くべきは、「30℃以下」という、一般的には“それほど暑くない日”でさえ、糖尿病患者の熱中症リスクが高かったという点です。

東京や大阪の都市部でのデータを見ると、最高気温が30℃を下回っている日でも、糖尿病群では30代・60代の熱中症発症率が有意に高まっていました。

これは糖尿病患者の体が中程度の暑さにさえうまく対応できない可能性を示しています。

また、北海道のような寒冷地域では、40~59歳の糖尿病患者でリスクが約2倍に。

寒い地域なら熱中症にはなりにくいと思われがちですが、冷房設備が十分でなかったり、暑熱に慣れていない(暑熱順化が不十分)といった要因が重なると、むしろ危険が高まるのです。

つまり「暑い地域だから危ない」「高齢者だけがリスク」──そんな従来の思い込みは、もはや通用しません。

この結果は、熱中症対策が高齢者中心に語られがちだった日本社会に新たな視点を突きつけているのです。

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私たちは今、気候変動の影響で年々暑さが厳しくなる時代を生きています。

この研究は、そんな時代において、糖尿病という「基礎疾患」が日常的な暑さにさえ危険を増すという現実を突きつけています。

特に、働き盛りの男性や、北海道など寒冷地に暮らす人々、そして「まだ若いから大丈夫」と思っている糖尿病患者は、油断せず、気温が30℃に達しなくても早めの対策を取ることが重要です。

冷房の活用、水分補給、衣類の工夫、外出時間の調整。

熱中症対策は、高齢者だけの問題ではなく、「糖尿病を持つすべての世代」にとって必要不可欠なものとなるでしょう。

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参考文献

糖尿病患者は熱中症リスクが1.4倍 ~全国規模の保険者データベースを用いた大規模調査を実施~
https://www.nitech.ac.jp/news/press/2025/13019.html

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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