精子はただ尾を使って、ひらひら泳ぐだけではないようです。
このほど、豪モナシュ大学(Monash University)らの最新研究で、精子は「スクリュー状の渦巻き」を発生させて、泳ぎを効率化させていることが明らかになりました。
これまでの研究では、主に液体表面近くでの精子の動きのみが調べられてきましたが、3次元での詳しい遊泳メカニズムが可視化されたのは今回が初めてです。
研究の詳細は2025年4月8日付で科学雑誌『Cell Reports Physical Science』に掲載されています。
目次
- 精子はスクリュー式に泳いでいた!
- 精子の「3次元的な泳ぎ」の解明は世界初の成果
精子はスクリュー式に泳いでいた!
私たちはしばしば、精子を“泳ぐ存在”としてイメージします。
鞭毛と呼ばれる尾をしならせて、体液中をひらひら泳ぐ姿でよく表現されます。
しかし新たな研究では、そんな単純な姿とはまったく異なる、より複雑で魅力的な実態が明らかになりました。
チームは今回、先進的な3Dイメージング技術を用いて、精子の泳ぎとその周囲の流れ場を再構築することに。
その結果、精子はコルク抜きのような渦巻き状の流れを生み出しており、しかもそれが精子の体に付着し、完全に同調して回転していることが明らかになったのです。
この協調したスピン運動が、精子の前進運動を強化し、まっすぐな進路を維持する助けとなっていました。
こちらが実際の映像です。
研究主任のレザ・ノスラティ(Reza Nosrati)氏はこう説明します。
「まっすぐな輪ゴムをねじって螺旋状にしたところを想像してください。そこにさらにもうひとひねり加えると、超螺旋(スーパーヘリックス)と呼ばれる、より強く巻かれた構造になります。
精子にとっては、この液体の超螺旋的な”ひねり”が運動を強化し、精子に追随するように渦が収束していくことで、より効率よく泳ぐことを可能にしていたのです」
この運動の中心にあるのが、精子の鞭毛です。
ムチのようにしなりながら動くこの尾が、精子を前へと押し進めています。
鞭毛の動きによって周囲の体液に渦が生まれ、コルク抜きのようにねじれた流れが、精子の後ろや周囲に形成されていました。
精子の「3次元的な泳ぎ」の解明は世界初の成果
この研究は、精子の運動性に関する理解を大きく前進させるものです。
これまでの研究では、主に液体の表面近くでの精子の動きが調査されてきましたが、より詳しい鞭毛の動きと、それを取り巻く3次元的な流体の流れ場の両方を同時に可視化したのは、今回が世界初の成果だといいます。

また今回の研究対象はヒトの精子でしたが、その知見は生殖分野を超えて、多くの分野に応用可能です。
この発見は、微生物学や流体力学の新たな研究領域を開くものでもあります。
たとえば、バクテリアのような“微小なスイマー”がどのように移動し、表面に付着するのかといったことを理解することで、感染の経路やバイオフィルム(細菌の集合体)形成の研究に貢献することが期待されます。
「こうしたビジュアル化によって、精子や他の微生物がどのようにさまざまな流体環境を進み、動いていくのか、流体力学的な理解が大きく深まるのです」とノスラティ氏は語っています。
参考文献
Sperm don’t just swim, they screw their way forward
https://phys.org/news/2025-04-sperm-dont.html
Sperm use corkscrew-like fluid flows to screw through their path to fertilization
https://interestingengineering.com/health/sperm-use-cockscrew-movement-to-move-forward?group=test_a
元論文
Superhelix flow structures drive sperm locomotion
https://doi.org/10.1016/j.xcrp.2025.102524
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部