筋肉増強剤ステロイドの”卒業”はネット任せ!?「危険な自己流」が広がる

世界大会に出場するような、異様に体が膨れ上がったムキムキのボディビルダーたち。

その背景に、筋肉増強剤、いわゆる「ステロイド」の使用が指摘されるケースもあります。

では、もしステロイド使用者が「やめたい」と思ったとき、どこに相談しているのでしょうか。

実は、医師ではなくオンラインの掲示板やフォーラムに頼る人が少なくないことが、最新研究で明らかになりました。

オーストラリアのグリフィス大学(Griffith University)の研究チームは、筋肉増強剤ステロイド使用者の「やめ方」情報がネット上でどのように共有されているかが詳しく調べられています。

研究の詳細は、2025年10月1日付の『Drug and Alcohol Review』誌に掲載されています。

目次

  • 筋肉増強剤ステロイドの使用をやめる時に起きること
  • ステロイド使用者たちはステロイドをやめる時に「医師」ではなく「ネット」に頼る

筋肉増強剤ステロイドの使用をやめる時に起きること

問題となる「ステロイド」は、炎症を抑える薬ではなく、筋肉を増やす目的で使われる筋肉増強剤ステロイド(アナボリック・アンドロゲン・ステロイド:AAS)です。

ステロイドは男性ホルモンのテストステロンに似た働きを持ち、筋肥大と回復を強く後押しします。

そのため競技者だけでなく、見た目の向上を目的とするジム愛好家の間でも使用が広がってきました。

ただし、日本やその他の国では、筋肉増強“目的”で承認された医薬品は存在しておらず、ネット経由の個人輸入や非正規ルートで入手したとしても、偽造品や品質不良のリスクが伴います。

日本のスポーツ庁も、健康被害の危険性とあわせて注意喚起を行っています。

こうした規制が示すように、ステロイドには大きな問題があります。

ステロイド使用中は外から男性ホルモンを入れるため、体が自分でホルモンを作らなくなるのです。

その状態で急にやめると、性欲や活力の低下、うつ状態、勃起不全、不妊、さらには筋肉の急減など、いわゆる離脱症状が出やすくなります。

この不調を軽くし、体のホルモン分泌を早く取り戻そうとして、利用者の間で広まっているのがポストサイクルセラピー(PCT)です。

PCTでは、本来は別の疾患に使う薬が自己流で用いられることがあります。

しかし、「どの薬を、どの量で、どのくらいの期間」という標準は確立しておらず、医療者側の知識や体制も十分とは言えません。

今回の研究は、こうした「やめ方」の情報が実際にどのように流通し、どんな考え方が共有されているのかを当事者の会話そのものから明らかにすることを目的としました。

研究チームは、オーストラリアのステロイド関連フォーラム3サイトから150スレッド、合計5059件の投稿を収集し、ヘルス・ビリーフ・モデル(HBM)という行動科学の枠組みで質的に分析しています。

HBMは、人が健康行動を選ぶときの「リスク認識」「行動のメリットと障壁」「行動のきっかけ」などを手がかりに、意思決定を読み解くためのモデルです。

では調査の結果、どのようなことが判明したのでしょうか。

ステロイド使用者たちはステロイドをやめる時に「医師」ではなく「ネット」に頼る

分析の結果、ステロイドのやめ方の相談は医師よりもオンライン・フォーラムに依存する傾向がはっきりと示されました。

医療機関に行かない理由としては、「ステロイドやポストサイクルセラピー(PCT)について医師が詳しくない」「否定的に扱われるのが怖い」「不適切な行為だと責められるのが不安」といった心理的・制度的な障壁が挙がっています。

そのため、利用者は体験談や仲間のアドバイスに頼らざるを得ず、短期的な筋肉維持や性機能の回復を優先する声が強くなりがちでした。

そして、ネット上の助言には正しいものと間違ったものが混ざっていました。

「PCTは絶対必要」という主張から、「若いから自然に戻る」「むしろPCTで悪化した」という真逆の意見まで並びます。

なかには過剰投与や誤った薬の組み合わせといった危険な自己流も報告されています。

「PCTをしなかったせいで長く回復しなかった」「骨密度が落ちた」「ホルモンが大きく崩れた」といった投稿も見られました。

専門家のあいだでも、自己流のPCTが本当に効果があって安全なのか、はっきりした意見はまだ出ていません。

個人差が大きく、PCTが回復を早める場合もあれば、回復を遅らせたり、健康リスクを高める可能性も指摘されています。

それでもネット依存が進む背景には、長い時間をかけて作った体が崩れる不安や、気分の落ち込みや性機能低下に直面して、すぐに効きそうな方法を選びたくなる心理が関係しています。

研究チームは「このデータは、ステロイド利用者に対する偏見のない支援が緊急に必要であることを浮き彫りにしている」と結論付けています。

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参考文献

Steroid users rely on risky online advice, not doctors, to quit
https://newatlas.com/health-wellbeing/anabolic-androgenic-steroids-post-cycle-therapy-cessation/

Significant barriers to safe steroid discontinuation
https://news.griffith.edu.au/2025/10/02/significant-barriers-to-safe-steroid-discontinuation/

元論文

Looking for the Best Way to Come Off Steroids Safely? Exploring Post-Cycle Therapy, Cessation, and Recovery Discourse and Practice in Australian Steroid Consumer Forums
https://doi.org/10.1111/dar.70042

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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