自分の空飛ぶマシンに乗り込んで、仲間たちと苛烈なレースを繰り広げる。
子どものころ誰もが一度は思い描いたそんな夢が、ついに現実のものとなるかもしれません。
2025年、スタートアップ企業「Jetson(ジェットソン)」が、モビリティイノベーションの祭典「UP Summit」で、 人が実際に搭乗して操縦する空中レースの新コンセプト「Jetson Air Games」を発表しました。
これまでアニメやSFの世界だけの話だった「空飛ぶクルマのレース」が、リアルな競技イベントとして動き出そうとしています。
目次
- 1人乗りeVTOL「Jetson ONE」と、空のレースコンセプト「Jetson Air Games」
- まるで「空のF1」!?夢と現実のはざまで広がる期待と課題
1人乗りeVTOL「Jetson ONE」と、空のレースコンセプト「Jetson Air Games」
Jetsonが開発した「Jetson ONE」は、1人乗りの小型電動垂直離着陸機(eVTOL)です。
パイロットはカーボンファイバーとアルミニウム製のスペースフレームで守られた座席に乗り込み、 X字に配置された4本のアーム、計8つのプロペラによって、まるで空飛ぶバイクのように垂直に離着陸し、空を自在に移動できます。
最高速度はソフトウェアで制限されているものの時速102キロ(約63マイル)。
操縦はジョイスティックが採用されており、初心者でも直感的に扱える設計です。
公式サイトでは,独自のフライトコンピューターにより、「誰でも5分以内にパイロットになれる」と謳われています。
動力は大容量のリチウムイオンバッテリーで、1回の飛行時間は最大20分間。
価格は12万8000ドル(約1930万円)で、2026年・2027年生産分はすでに完売しています。
将来的には14万8000ドル(約2230万円)への値上げも告知されています。
安全対策として、モーターが1つ故障しても飛行できる設計であり、パラシュートシステム、ハンズフリーホバー機能なども搭載されています。
そして、このJetson ONEを使って、実際に人が乗って操縦する新しいレース競技を展開しようというのが「Jetson Air Games」です。
既存のeVTOLレースやドローンレースは無人機が中心ですが、Jetson Air Gamesは「有人」であることが最大の特徴。
2025年のUP Summitでは、4機によるフォーメーション飛行や、巨大なパイロンを縫って疾走するレースデモが実現させました。
「世界初のJetsonレース」も開催され、CEOのStéphan D’haene氏が勝者となっています。
それでは実際のレースの様子や人々の反応を見てみましょう。
まるで「空のF1」!?夢と現実のはざまで広がる期待と課題
Jetson Air Gamesが世界中で注目を集めている理由は、「かつて夢見た未来」が手の届く現実になりつつあるからです。
YouTubeやSNSには、「SFアニメで憧れた空飛ぶクルマがついに本物になった」「今この瞬間を目撃できるなんて感動」といった興奮の声があふれています。
一方で、現実的な課題や懸念も無視できません。
「プロペラがむき出しでガードがなく危険」「”Everyone is a pilot(誰もがパイロット)”というフレーズは、本職のパイロットとしては不安」「20分しか飛べず、体重制限も厳しい」「価格が高すぎて多くの人には手が届かない」などの指摘があります。
また、「黎明期のF1や初期の飛行機レースのように、今は危うさとワクワクが混在している」と冷静な目で将来性を語る声も少なくありません。
Jetson社も、現状のデモやレースは関係者や訓練を受けたパイロットが中心であり、 「すぐに誰もが飛べる時代」にはまだ時間がかかることを認めています。
今後、空のレースを“日常のエンターテインメント”へと進化させるには、 プロペラガードなどの安全強化、バッテリー持続時間の延長、価格や重量制限の緩和、操縦支援や法整備といった課題の解決が欠かせないでしょう。
とはいえ、かつて自動車がレースとともに技術革新したように、 「空飛ぶクルマ」もまた、こうしたスポーツ競技をきっかけに技術進化が加速し、 新しい社会や日常風景を生み出す可能性があります。
“空のF1”の実現は間近に迫っています。
次に空を駆け抜けるのは、もしかしたらあなたかもしれませんよ。
参考文献
Single-seater eVTOLs duke it out for air race supremacy
https://newatlas.com/aircraft/jetson-one-air-games-concept/
Jetson Unveils Jetson Air Games Concept with Electrifying Aerial Showcase at UP.Summit 2025
https://jetson.com/news/jetson-UP.Summit-2025
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部