2024年度、量子力学の世界はこれまでの常識を覆す衝撃的なニュースが次々と飛び出しています。
たとえば「加熱の反対は冷却じゃない?」「時間は量子もつれの副産物?」「一方向に動くときだけ質量が生じる粒子とは?」といった、思わず目を疑うような研究結果が世界中の大学や研究機関で報告されました。
さらに「絶対零度を超える負の温度は“この世の何よりも熱い”」「因果律を崩壊させるかもしれない光の超常現象」「脳の意識は量子現象なのか」「量子エネルギーテレポーテーションがSFの世界を現実化する可能性」など、物理や化学、さらには生物学の領域をも巻き込む“量子革命”が進行中です。
果たしてこれらの新発見は、私たちの世界観をどこまで変えてしまうのでしょうか?
今回は話題沸騰中の「2024年度版・量子力学ニュースTOP7」を厳選し、要点をわかりやすくまとめました。
最新の量子研究がもたらす“未来”を実感してみてください。
目次
- 第7位:加熱の反対は冷却ではないと判明!
- 第6位:時間は「量子もつれ」の副産物に過ぎないとする研究結果が発表
- 第5位:一方向に移動するときだけ質量を持つ粒子を発見!
- 第4位:因果律崩壊?光が原子雲に入る前に原子雲から出ていくのを観測
- 第3位:絶対零度を超える負の温度は「この世の何より」も熱い
- 第2位:意識は量子現象なのか?「量子意識理論」を支持する有力な研究結果が報告される
- 第1位:日本人が考案した「量子エネルギーテレポーテーション」をわかりやすく解説
第7位:加熱の反対は冷却ではないと判明!
これまで加熱と冷却は自宅と駅を行き来するように、共通プロセスを逆転させたものだと考えられてきました。
しかしドイツのマックス・プランク研究所(MPI)で行われた研究により、加熱と冷却が根本的に異なる物理経路を辿っていることが示されました。
この発見は加熱と冷却をセットに考えていた私たちの常識を揺るがすものであり「加熱とはなにか?」「冷却とはなにか?」を新たに問い直すものとなるでしょう。
研究者たちも新たな発見について「熱力学のもう一つの法則とみなせるほどだ」と述べています。
第6位:時間は「量子もつれ」の副産物に過ぎないとする研究結果が発表
時間は真なのか、それとも偽なのか?
イタリアのフィレンツェ大学(UNIFI)で行われた研究により、時間を否定するもう1つのシュレーディンガー方程式が発見され、時間は「量子もつれ」現象がうみだす副産物のような存在であることが示されました。
研究者たちは「私たちが時間の経過を知覚するということは、物理世界に何らかの「もつれ」が織り込まれていることかもしれません」と述べています。
私たちにとって当たり前の存在である「時間」。
新たな発見は既存の時間の概念を大きく揺るがすものになるでしょう。
第5位:一方向に移動するときだけ質量を持つ粒子を発見!
その方向に何があるのでしょうか?
アメリカのコロンビア大学(CU)などの研究チームが、実験の末に「一方向に移動しているときだけ有効質量を持つ」という、これまでにない奇妙な粒子を発見しました。
研究者たちは「たとえば北へまっすぐ進んでいる間は“質量ゼロ”なのに、東や西へ90度曲がった途端に“質量”が発生するような状態」と、その異様さを表現しています。
この不思議な性質は、16年前に理論的に予測されていた「セミディラックフェルミオン」と呼ばれる準粒子と一致するもので、今回はそれが初めて実際の固体材料で確認されたのです。
セミディラックフェルミオンは、私たちになじみ深い電子と、有効質量ゼロのディラック電子(理研でも観測例がある)を“掛け合わせた”ような存在といえます。
研究者らは、この特性を解き明かすことで、物理学の新次元へと踏み出すとともに、バッテリーやセンサーなど、既存の技術概念を覆すような新しい応用への道が開けると期待しています。
とはいえ、「進行方向で有効質量が出たり消えたりする」という話は、直観的には受け入れ難いもの。いったいどんな手品で、この不可思議な観測結果が得られたのでしょうか?
第4位:因果律崩壊?光が原子雲に入る前に原子雲から出ていくのを観測
カナダのトロント大学で行われた研究により、原子雲に向けて発射された光の粒子が、原子雲に入るよりも前に、原子雲から出てきてしまったことが実験的に観測されました。
これまでの研究により、液体や気体など媒体の中を通過する光を遅らせたり、完全に停止させるなど遅延の極大化が行われてきましたが、今回は逆に遅延をゼロを超えてマイナスにすることを実現したのです。
研究者たちによれば、この現象は光子に負の時間が流れていたと解釈できると述べています。
この奇妙な現象は、どんな原理で起きたのでしょうか?
第3位:絶対零度を超える負の温度は「この世の何より」も熱い
イギリスのケンブリッジ大学(Cambridge)で行われた研究により、絶対零度を超えて負の温度に達した「この世の何よりも熱い」物体を、さらに全くの未知の状態の「何か」に進化させることに成功しました。
「負の温度」の物体は、熱力学的にどんな高温よりもさらに「熱い」状態であり、たとえば、1億℃の物体に接触させると、負の温度の物体のほうが瞬時に1億℃側へエネルギーを流し込み、逆に「加熱」してしまうのです。
このとき相手の物体に温度制限はなく、理論上は相手が100億℃でも1兆℃でも、さらに無限大でも加熱することが可能です。
このような状態は正の温度の物体では実現不可能です。
負の温度はここ数年で急速に理解が進んでおり、現実的な応用も考えられるようになってきました。
負の温度はここ数年で理解が大きく進み、実用の可能性も示唆されています。ただし、その概念はかなり難解で、「いったいどうやってそんなモノを作るの?」と思われるかもしれません。
新たな研究では、この負の温度状態にするターゲットに、量子力学の分野でも、まだほとんど理解が進んでいない奇妙な量子状態「幾何学的フラストレーション」が選ばれました。
この幾何学的フラストレーションは、ごく最近になって人工的に作り出すことが可能になったばかり。
複数の量子的な状態が同時に混在するため「量子のごった煮」のような様相を呈します。
研究チームは、このごった煮状態を絶対零度付近まで冷やし、そこから一気に「負の温度」へと移行させ、何が起こるのかを実験的に調べました。
量子世界の中でもとりわけ奇妙な量子状態を、温度の世界でもとりわけ奇妙な「負の温度」に移行させ「奇妙」×「奇妙」を実現し、何が起こるかを調べたのです。
イメージとしては、中学生の理科実験でビーカーに試薬を片っ端から投入して大騒ぎしている光景に近いかもしれません。
その結果、従来の物理学の常識では説明がつかないような“新しい何か”が発生し、研究者たちは計測データの解釈に頭を悩ませています。
この記事ではまず、今回コラボする「負の温度」と「量子状態のごった煮(幾何学的フラストレーション)」の両方を分かりやすく解説し、そのうえで研究結果をご紹介します。
(※負の温度や幾何学的フラストレーションをご存じの方は、前半部分を読み飛ばしていただいて構いません)
量子のごった煮の中では何が起こり、負の温度へ移行したときにどんな変化が見られたのでしょうか?
第2位:意識は量子現象なのか?「量子意識理論」を支持する有力な研究結果が報告される
意識とは何でしょうか?
アメリカのウェルズリー大学(Wellsely)で行われた研究により、脳における意識の基盤が量子的なものであるとする「量子意識理論」を支持する結果が発表されました。
量子意識理論では、意識の本質はニューロン内部の「微小管」とよばれる細い繊維の量子振動であるとされており、量子的な振動がニューロンの電気信号パターンに大きな影響を与えると考えられています。
今回の研究では、量子的振動の「巣」と考えられている微小管に結合して保護する化学物質を加えた場合、麻酔薬によって意識を失うまでの時間が大幅に遅くなることが示されています。
古典的な理解では微小管タンパク質の保護がなぜ麻酔薬への抵抗力につながるかを上手く説明できません。
量子意識理論は30年前は奇妙な仮説に過ぎませんでしたが、ここ十数年で検証が進み、急激に勢いを増してきています。
研究者たちはプレスリリースにて「心が量子現象であると認められるようになれば、私たちは新しい時代に入るだろう」と述べています。
加熱する量子意識研究の最前線は今、どうなっているのでしょうか?
第1位:日本人が考案した「量子エネルギーテレポーテーション」をわかりやすく解説
情報だけでなくエネルギーもテレポートするようです。
東北大学の堀田昌寛氏によって2008年に提唱された量子エネルギーテレポーテーション理論の実証実験が、ここ最近、立て続けに成功しました。
発表当初はその奇抜さゆえ注目されませんでしたが、15年の時を経て、量子エネルギーテレポーテーションは物理学界で最も注目される理論となりました。
量子エネルギーテレポーテーションでは「ゼロ点エネルギーの収集」「真空のゆらぎ」「負のエネルギーの発生」「量子もつれ」「事象の地平面」といったSFの世界のような言葉や概念が飛び交い、私たちの宇宙や空間に対する認識を激変させるものになっています。
量子エネルギーテレポーテーションの応用が進めば、SFでしか耳にしなかったゼロポイントエンジンが実現するでしょう。
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部