それは子ども向けのおもちゃとして販売され、時にはクレーンゲームの景品にもなっていたものでした。
カラフルな見た目、軽い材質、一見して「安全なトイガン」にしか見えなかったその製品。
しかし2025年7月17日、警察庁はこの玩具が実は“真正拳銃”と同様の発射機能を持っていたとして、全国に緊急通達を出しました。
日本国内に流通した1万5000丁の玩具拳銃に対し、2025年12月31日までの届け出・回収を呼びかけています。
見た目はおもちゃ、中身は本物。なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか?
目次
- おもちゃとして流通していた「本物の銃」
- 違法拳銃と知らずに所持?問われるネット通販と輸入制度
おもちゃとして流通していた「本物の銃」

今回問題となった拳銃は、もともと海外で製造され、日本国内には「トイガン(玩具)」として輸入されたものでした。
販売形態もさまざまで、ネット通販はもちろん、一部の雑貨店やゲームセンターの景品としても流通していたとされています。
こうした製品は「BB弾専用」や「装飾用モデルガン」と銘打たれて販売されており、外見もプラスチック製のパーツが目立つなど、一般の消費者には危険性を判断できないものでした。
しかし警察庁が調査を進めるうちに、いくつかの個体について実際に実弾を発射できる機構が組み込まれていることが発覚しました。
2025年7月17日に発表された警察庁の公式通達によると、以下の3つの要件が“真正拳銃”としての違法性を裏付けるポイントです。
- 銃身及び弾倉が貫通
- 弾倉又は薬室に実包の装てんが可能
- 撃針を有し、薬莢の雷管部分を打撃して弾丸を発射する撃発機構を有する

これらは当然ながら、日本の銃刀法により一般市民の所持が固く禁じられています。
それにもかかわらず、それが“玩具”として人々の手に渡っていたのです。
警察庁は、これらの拳銃を所持している可能性のある人に対し、2025年12月31日までに最寄りの警察署へ提出するよう呼びかけています。
では、どうしてこのような事態が生じたのでしょうか?
違法拳銃と知らずに所持?問われるネット通販と輸入制度
今回のケースでは、多くの人が「本物の拳銃を買った」という意識なしに所持していた可能性があります。
そして、これまでにも把握されている玩具拳銃は16種類でしたが、2025年7月に新たな1種類が追加されたことになります。

該当する拳銃の多くは中国や東南アジア製で、海外通販サイトを通じて簡単に入手可能だったとされます。
このような商品が税関を通過し、日本国内で流通してしまう背景には、海外からの個人輸入や転売に対するチェック体制の甘さがあると指摘されています。
また、ネット通販では販売元の所在が不明瞭なことも多く、違法な商品を特定・排除することが困難になっているのが現状です。
玩具拳銃の中には、実際に「火薬入りの弾丸」を使用し、標的に向けて発射できるだけの威力がある個体もあるそう。
「至近距離であれば人命に関わる重大な傷害を与える可能性も否定できない」との意見も見られます。
当然、このような玩具拳銃が犯罪に利用される恐れもあります。
玩具に見えるからといって、安全であるとは限りません。
今回の事例から学べるのは、消費者自身が「武器になりうる商品」への認識を高めなければいけない、という教訓です。
警察庁は引き続き、該当する玩具拳銃の発見・回収に向けて情報提供を呼びかけています。
あなたの家にある「なんとなく買った玩具」。
それが本当に“玩具”かどうか、今一度確かめてみる必要があるのかもしれません。
参考文献
拳銃と認定された玩具銃や遺品拳銃等について
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/drug/kenju/modelgun.html
新たに把握された玩具拳銃
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/drug/kenju/new_species.html
Japan Urgently Recalls 16,000 Toy Pistols Capable of Firing Real Ammunition
https://www.odditycentral.com/news/japan-urgently-recalls-16000-toy-pistols-capable-of-firing-real-ammunition.html
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部