独身は脳にいい? 認知症リスクは「独り身」の方が低くなっていた

アルツハイマー

認知症リスクと結婚歴との間に意外な関係性があることが、米フロリダ州立大学(FSU)の最新研究で明らかになりました。

一般的には、結婚してパートナーと一緒に暮らしている方が脳の健康にも良いイメージがあるかもしれません。

しかし今回の研究では「独り身の方がむしろ認知症になりにくい」という、これまでの常識とは相反する傾向が見つかったのです。

研究の詳細は2025年3月20日付で医学雑誌『Alzheimer’s & Dementia』に掲載されています。

目次

  • 結婚は本当に「健康」にいいのか?
  • なぜ独り身だと認知症リスクが下がるのか?

結婚は本当に「健康」にいいのか?

「結婚していた方が健康で長生きできる」と聞いたことがあるかもしれません。

確かに過去の研究では、結婚によって得られる精神的・経済的な安定が、心臓病やうつ病、さらには寿命にまで良い影響を与えることが示唆されてきました。

パートナーがいれば、日常的な話し相手にもなりますし、病気の初期症状に気づいてもらいやすく、病院への受診も早期に促されるなど、そうした日常のサポートが健康に寄与する理由とされています。

では、認知症についても同じことが言えるのでしょうか?

実はこれまでの研究では「未婚者の方が認知症リスクが高い」とするものもあれば、逆に「差がない」「離婚したほうがリスクが下がる」という結果もあり、一定の結論は出ていませんでした。

特に注目すべきは、近年の社会の変化です。

現代では一度も結婚しないまま高齢になる人、離婚を選ぶ人が増えています。

こうした「独り身」が増えた現代社会において、結婚が脳の健康にもたらす影響をあらためて調べ直す必要があったのです。

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Credit: canva

そこで研究チームは今回、アメリカ全土のアルツハイマー病研究センター42施設以上から集められたデータを使用し、2万4107人の高齢者(平均年齢71.8歳)を対象に最大18年間追跡しました。

調査開始時点では、いずれの参加者も認知症ではありません。

その後、毎年1回、訓練を受けた臨床医による標準化された評価が行われ、認知症の診断がつけられました。

その結果、追跡期間中に認知症を発症したのは、全体の20.1%でした。

しかし結婚歴と認知症との関係性を見ると、興味深い傾向が見つかったのです。

グループ別で見ると、既婚者における認知症の発症率は21.9%、死別者で21.9%となっていました。

ところが離婚者は12.8%、一度も結婚していない人では12.4%と、独り身の高齢者は明らかに認知症リスクが低くなっていたのです。

統計解析で、既婚者を基準にしたリスク相対値も算出されました。

それによると、

・離婚した場合、認知症の発症リスクは34%低下

・一度も結婚していない未婚者の場合、認知症の発症リスクは40%低下

との結果が出ています。

さらに健康状態、生活習慣、遺伝要因などをすべて考慮したモデルでも、離婚者と未婚者のリスク低下は有意のままでした。

これは「結婚していたほうが健康にいい」という従来の考えを揺るがす結果です。

では、なぜ未婚や離婚の人たちの方が認知症リスクが低いのでしょうか?

なぜ独り身だと認知症リスクが下がるのか?

では、なぜ未婚や離婚の人たちの方が認知症リスクが低いのでしょうか?

この点について、チームはまだ明確な答えを見つけておらず、慎重な姿勢をとっています。

それでもいくつかの可能性を提示しています。

仮説のひとつは「結婚の質の悪さが逆に脳の健康を阻害している」という可能性です。

世間でもよく言われるように、結婚当初は仲睦まじかった夫婦も、年月を経るにつれて話すことも、どこかへ一緒に出かけることもなくなって、仲が冷めてしまうことがあります。

そうなると、互いの存在が慢性的なストレスとなって、認知機能を下げてしまうと考えられるのです。

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もうひとつの仮説は「未婚者の方が友人関係や地域とのつながりが豊か」という可能性です。

これまでの調査で、独り身の高齢者は家庭や親戚などの狭い人間関係に縛られず、友人や地域とのつながりを重視して、より広い社会的ネットワークを築いている傾向があることが指摘されてきました。

そうした多様な人間関係が脳への刺激となり、認知的な健康を高めている可能性があるのです。

しかし、これらはまだ仮説の域を出ていないため、今後の調査が必要でしょう。

それでも今回の研究結果は「独り身は不健康」という従来の価値観に見直しを迫るものです。

もちろん、結婚の有無だけで健康や幸福が決まるわけではありませんし、結婚しているからといって認知症リスクが高まるわけでは決してありません。

しかし未婚や離婚、死別といったライフスタイルの多様化が進む今、「独り身でも健やかに年を重ねられる」ことを示す科学的証拠が増えてきたことは、多くの人にとって安心材料になるのではないでしょうか。

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参考文献

Marriage linked to higher dementia risk in older adults, 18-year study finds
https://medicalxpress.com/news/2025-04-marriage-linked-higher-dementia-older.html

元論文

Marital status and risk of dementia over 18 years: Surprising findings from the National Alzheimer’s Coordinating Center
https://doi.org/10.1002/alz.70072

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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