犬が見る世界には赤がない?! 人間と犬の見え方の違いとは

イヌ

花や草木、洋服や食べ物、世界は色に溢れています。

しかし、実はそう見えているのは人間だけで、あなたの隣にいるペットは同じ「色」を見ていないかもしれません。

イヌとヒトの視覚はまったく異なり、イヌが見えにくいものがヒトには見えやすかったり、逆にヒトには見えにくいものがイヌには見えやすかったりします。

今回はそんなヒトとは違うイヌの「見え方」について詳しくご紹介していきましょう。

目次

  • 犬は青と黄色で世界を見る
  • 色だけじゃない!人間と犬の見え方の違い
  • 犬は嗅覚と聴覚で視力をカバーできる

犬は青と黄色で世界を見る

じっと見つめる犬
じっと見つめる犬 / credit:Pixabay

目の中には錐体と呼ばれる色を認識するためのセンサーがあります。

人間の場合、その錐体は3つあり、長波長域(赤)、中波長域(緑)、短波長域(青)のそれぞれの光刺激の強さを読み取って色を認識しています。

このため、人間にとっての基本的な色を3原色と呼びます。

しかし、イヌの場合は錐体が2つしかなく、赤色周辺を示す長波長域を認識することができません。

このため、イヌは赤色を認識できず、図のように人間で言う紫~青を青っぽい色、緑~黄~橙を黄色っぽい色と認識していることになります。

犬と人間の見え方
犬と人間の見え方 / credit:いわさきはるか

人間には鮮やかに見える赤ですが、赤を認識できないイヌの目から見れば明暗しかわからず、灰色に見えているのです。

イヌは紫外線を見ることができる

サングラスをかけた犬
サングラスをかけた犬 / credit:Pixabay

また、ロンドン大学シティ校の生物学者ロン・ダグラス氏によればイヌは人間には認識できない紫外線を認識できると言います。

人間の目では紫外線は水晶体に吸収されてしまって認識できませんが、実は多くの生き物が紫外線を見ることができるそうです。

例えば昆虫は紫外線で花を見ることで蜜の在処をすぐに認識することができたり、真っ黒に見えるカラスは紫外線が見えると模様が合って個体の識別が可能であったり、紫外線が見えることで有利なことは様々あると考えられています。

人間のように波長を色で細かく区別はしないものの、動物たちの多くはその分広い波長の光を捉えているようです。

タペタムで暗闇でもわずかな光を認識

暗い闇でイヌやネコの目が光るのは、瞳の中にタペタム層があるため
暗い闇でイヌやネコの目が光るのは、瞳の中にタペタム層があるため / Credit:en.Wikipedia

またイヌやネコなどの動物には網膜の裏にタペタム層と呼ばれる人間にはない反射板がついています。

これにより、網膜が吸収できなかった光を再度網膜へ反射させることで、僅かな光であっても2倍の強度で認識することができるのです。

イヌやネコなどの動物が暗闇の中で目を光らせているのを見たことがある方も多いのではないでしょうか?

あればタペタム層で目に入った光が反射しているからなのです。

このため、イヌは暗闇の中でわずかな光も逃さず認識でき、暗闇でも何があるかわかると言います。

このように、イヌと人間では色や光の見え方が大きく異なりますが、実はそれ以外の「見え方」にも大きな違いがあります。

次ページで説明していきますね。

色だけじゃない!人間と犬の見え方の違い

何かを見る人間と犬
何かを見る人間と犬 / credit:Pixabay

まず、イヌと人間では視力がまったく異なります。

犬種によって異なるもののイヌの視力は人間に換算すると0.2~0.3程度で、ピントを合わせる能力が低く、視界はかなりぼやけているようです。

また、人間とイヌでは目のつき方にも大きな違いがあります。

人間は真正面に目がついていますが、イヌは広い視野を保つため、顔の正面に対し20度ほどの角度がついているのです。

このため、視野は広いものの立体を認識できる範囲は人間よりも狭く、物の奥行きを認識しづらかったり、距離感がわかりづらかったりします。

ここまで事実を踏まえた上で、人間の見る風景とイヌの見る風景を比べると、こんな風に違ってみえます。

人間と犬の目で見た風景の違い
人間と犬の目で見た風景の違い / Credit:caninecottages,Seeing UK landmarks through a dog’s eyes

だいぶイヌの方が、視界は悪いという印象を受けますね。

とはいえ、イヌの目の構造は「狩りを行う」というイヌの生態に特化しています。

世界を広く見渡し、動くものを瞬時に見つけられるよう、視野の広さや動体視力は人間をはるかに凌駕しているのです。

また、イヌはぼんやりとした視界を十分にカバーできる視覚以外の能力を持っています。

それが優れた嗅覚と聴覚です。

犬は嗅覚と聴覚で視力をカバーできる

耳をすます犬
耳をすます犬 / credit:Pixabay

イヌは人間よりも非常に優れた嗅覚と聴覚を持っています。

嗅覚が人間の数千倍と並外れていることは良く知られていることだと思いますが、実は聴覚も優れており、人間には聞こえない周波数の音を聞き取れたり、1㎞先の音を聞き取れたりするそうです。

エトヴェシュ・ロラーンド大学のガーボル氏らが行った実験では、イヌは嗅覚に頼らなくても声だけで飼い主を探し当てることができるという結果が示されました。

イヌは視覚だけでなく、優れた嗅覚・聴覚を持っているため、多少視界がぼやけていても問題なく生活を行うことができるのですね。

そう考えるとむしろ人間の方が視覚に頼る割合が大きすぎて不便な気もしてきます。

犬が見える世界をイメージしてみよう

黄色いオモチャで遊ぶ犬
黄色いオモチャで遊ぶ犬 / credit:Pixabay

ペットのオモチャや食事を選ぶとき、私たちはついつい自分の目でみた認識のまま選んでしまいます。

しかし実は愛犬の目に映るのは私たちとまったく異なる世界で、私たちが選んだ色鮮やかな物たちもイヌにとっては薄ぼんやりした物なのかもしれません。

例えば、イヌの視覚では赤いボールなどは、非常に見えにくく、逆に青や黄色のボールだとはっきり見えると言うことになります。

私たちの目には血色豊かなお肉のように見えるペットフードもイヌには見えにくいでしょう。

また、私たちはついつい視覚ばかり考えてしまいますが、聴覚と嗅覚も優れたイヌからすればじゃらじゃらと音が鳴ったり、魅力的な臭いがするものがお好みかもしれません。

愛犬の五感を考えながらオモチャや食事を選んでみると、より気に入ってもらえる品々に出会えるかもしれませんよ。

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参考文献

How dogs see the world
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-10881241/Dogs-yellow-blue-eight-times-blurred-vision-pictures-reveal.html

What Colors Can Your Dog See?
https://www.thewildest.com/dog-lifestyle/what-colors-do-dogs-see

Cats and Dogs May See in Ultraviolet
https://www.livescience.com/43461-cats-and-dogs-see-in-ultraviolet.html

元論文

Vision in dogs(PDF)
http://www.rctn.org/bruno/animal-eyes/dog-vision-miller-murphy.pdf

The acoustic bases of human voice identity processing in dogs
https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-022-01601-z

ライター

いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。

編集者

ナゾロジー 編集部

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