スペインICN2(カタルーニャ・ナノ科学技術研究所)らの最新研究で、氷は機械的な圧力を受けて変形すると、電気を発生する性質を持っていることが明らかになりました。
こうした性質は「フレキソエレクトリック(flexoelectric)」と呼ばれます。
この知見は、将来のテクノロジー開発に大きな影響を与えるだけでなく、雷の発生といった自然現象の理解にも光を当てる可能性があります。
研究の詳細は2025年8月27日付で科学雑誌『Nature Physics』に掲載されました。
目次
- 氷が隠し持っていた「電気的性質」とは?
- 氷とフレキソエレクトリシティ、そして雷とのつながり
氷が隠し持っていた「電気的性質」とは?

氷は言うまでもなく、地球上でもっともありふれた物質の1つです。
氷河や氷山、山の雪、そして極地の氷床など、地球のいたるところに存在しています。
これほど身近な物質であっても、その内部の性質はまだ完全には解明されていません。
私たちが学校で習うように、水の分子(H₂O)は「酸素原子」と「水素原子」からできており、電気的にプラスとマイナスの性質をもっています。
しかし水が凍って氷になると、分子が規則正しく並び、全体としてはそのプラスとマイナスが打ち消し合うため、通常の氷は「電気を生み出す性質=圧電性(piezoelectricity)を持たない」と考えられてきました。
ところが今回の国際共同研究は、氷を“曲げる”ことで電気が発生することを初めて実証しました。
これは「フレキソエレクトリシティ」と呼ばれる現象で、物質に不均一な力、つまり片側から押したり曲げたりしたときに、電気的な偏り(分極)が生じ、電圧が発生するという仕組みです。
セラミック材料の一部には以前から確認されていた性質ですが、氷にもこの特徴があるとは想定外でした。
氷とフレキソエレクトリシティ、そして雷とのつながり

今回の発見で最も驚くべき点の1つは、自然現象との関連です。
研究結果は、氷のフレキソエレクトリシティが雷雨の際に雲の中で電気が蓄積される過程、すなわち雷の発生メカニズムに関与している可能性を示しています。
雷は、雲の中で氷の粒同士が衝突し、それによって電荷が分離・蓄積されることで生じることが知られています。
蓄えられた電位差が限界を超えると、雷として一気に放出されるのです。
しかし、これまで氷がどのようにして電荷を帯びるのかは明確に説明されていませんでした。
なぜなら、氷は一般的に圧縮されただけでは電荷を生じさせる「圧電体(piezoelectric)」ではないと考えられていたからです。
今回の研究では、氷の板を曲げた際に電位が発生することが実際に測定されました。
具体的には、氷のブロックを2枚の金属板の間に置き、計測装置で電圧を記録したのです。
その結果は、雷雨中に氷粒が衝突して電気的に帯電する現象と一致していました。
このことから、研究者たちは「フレキソエレクトリシティ」が雷の電位生成を説明する有力な要因のひとつである可能性を示唆しています。
さらに研究チームは、この氷の特性を実用的に活かす新たな研究の方向性を模索し始めています。
まだ具体的な応用例を語るには時期尚早ですが、氷を利用した新しい電子デバイスの開発につながるかもしれません。
身近でありながら未知の顔を持つ「氷」。
その秘密を解き明かすことは、自然界の謎を理解するだけでなく、未来の技術革新にも直結する可能性があるのです。
参考文献
Scientists find that ice generates electricity when bent
https://phys.org/news/2025-09-scientists-ice-generates-electricity-bent.html
元論文
Flexoelectricity and surface ferroelectricity of water ice
https://doi.org/10.1038/s41567-025-02995-6
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部