南米アマゾンの森に暮らす小さなヘビが、自然界でも最強クラスの“毒ガエル”を食べて生き残る。
そんな驚きの生態が、米カリフォルニア大学バークレー校(UCB)の研究で明らかになっています。
しかし、このヘビたちはただ無謀に毒ガエルへと飛びついているわけではありませんでした。
彼らは食べる前に、とても不思議な「ある工夫」をしていたのです。
命がけの毒の攻防、その知られざる駆け引きに迫ります。
目次
- 毒ガエルを食べるための「工夫」とは?
- 自然界の「毒との戦い」はどう進化してきたのか
毒ガエルを食べるための「工夫」とは?
研究チームの実験に使用されたのは、コロンビアのアマゾンに暮らす「ロイヤルグラウンドスネーク(学名:Erythrolamprus reginae)」です。
チームは、数日間も餌を与えずに飼育していたヘビの前に猛毒を持つ「ヤドクガエル(学名:Ameerega trivittata)」を与えました。
このカエルの皮膚には、神経や筋肉のはたらきを止めてしまう「ヒストリオニコトキシン」や「プミリオトキシン」などの猛毒が含まれており、ちょっとかじっただけでも他の動物なら命に関わるほどです。
ところが、チームが行った最新の実験では、このヘビたちが“ただ食べるだけ”ではないことが発見されました。
実験で空腹のロイヤルグラウンドスネークに毒ガエルを与えて観察したところ、まず10匹中6匹は猛毒を察知して、食べるのを拒みました。
ところが、残りの4匹は果敢にも猛毒ガエルを捕食したのです。
その一方で、ヘビたちはすぐにカエルを丸呑みにせず、まずはカエルの体を地面や床に何度もこすりつけてから飲み込む行動を見せたのです。
実際の映像がこちら。
この「こすり落とし」行動は、まるで獲物の表面についた危険な物質を落とそうとしているようにも見えました。
チームによると、これは一部の鳥類が毒虫や毒ガエルを捕まえた際、同じように毒を削ぎ落とす行動に似ているとのことです。
実際に実験では、「こすり落とし」の工夫をした4匹のうち、3匹が無事に生き残ることができました。
つまり、ただの耐性だけでなく「食べ方」自体にも生存の知恵が隠されていたのです。
自然界の「毒との戦い」はどう進化してきたのか
自然界には、カエルだけでなく「毒を持つ動物」と「毒に耐える動物」との果てしない“軍拡競争”があります。
例えば、ヤドクガエルの毒は自分で作られるだけでなく、食べた昆虫やダニから体内に取り込むことで強力になっています。
一方で、カエルを食べる側のヘビたちは、肝臓の中に毒を分解したり、毒を吸着して無害化する特殊なタンパク質を持っていることも分かっています。
このような「毒をどうやって無効化するか」という進化は、哺乳類にも見られます。
たとえば、カリフォルニアジリスは、ヘビの毒を中和するタンパク質を血液に持っており、地域ごとに違う毒に合わせて「オーダーメイド」で防御していることも知られています。
しかし、どれほど耐性が進化しても、動物たちはまず「毒を避ける」工夫を優先します。
今回のヘビのように獲物の表面をこすり落としたり、毒を持つイモリの背中の皮だけ避けて食べたりする行動もその一例です。
自然界の「毒」と「解毒」の軍拡競争は今もなお続いています。
小さなヘビが編み出した“食べ方の工夫”は、厳しい自然界を生き抜くための大きな武器だったのです。
参考文献
Snakes Caught ‘Wiping’ Poison Off Frogs, Amidst Nature’s Toxic Arms Race
https://www.sciencealert.com/snakes-caught-wiping-poison-off-frogs-amidst-natures-toxic-arms-race
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
 
  
  
  
  