善い行いは、それを施した人自身の心も幸福にしてくれるようです。
中国・深圳大学(しんせんだいがく)の最新研究で、1日たった数円の寄付を続けるだけで、うつ症状が軽減され、心の健康が改善される可能性があることが示されました。
これは日々の生活の中でほんのわずかな行動が、精神的な幸福感に大きな影響を与えるという興味深い発見です。
研究の詳細は2025年2月27日付で学術誌『Psychological Science』に掲載されました。
目次
- 毎日の寄付で、うつ病は治るのか?
- 1日数円の寄付で「うつ症状が改善」
毎日の寄付で、うつ病は治るのか?

研究の背景には「他人のためにお金を使うことが幸福感を高める」という多くの先行研究があります。
しかしそうした研究のほとんどは、親切な行為やボランティアなど、人との直接的な社会交流を伴うものでした。
うつ病を抱える人々にとっては、こうした対人交流が負担となり、感情的な苦痛や疲労を高めて、逆効果になることが指摘されています。
そこで研究チームは今回、直接的な対人交流を必要としない「オンライン寄付」なら、うつ病の人々にも心理的な負担なく行えると考えました。
このアイデアを発案したのは、研究主任のツァン・ユヤン(Zhang Yuyang)氏です。
彼は次のように述べています。
「学部生の頃、私は公共サービスに情熱を注ぎ、ボランティア活動に取り組んだり、大学の農業資源を活用して農家の土壌問題を支援したりしていました」
その中で始めたのは、1日1元(約20円)を寄付する「毎日1元寄付プログラム」だといいます。
「大学院の心理学試験の準備期間中は非常にストレスが多かったのですが、寄付をすることで気分が高まることに気づきました。
これはいわゆる“温かい気持ち(ウォームグロー)”の効果かもしれません。
この気づきは、私が日常的に善行を行うようになるきっかけとなりました」
こうした経験をもとに、オンライン寄付がうつ病患者の症状を改善できるのではないかと考えたのです。
1日数円の寄付で「うつ症状が改善」
チームは中国国内の大学生、延べ883名を対象に実験をスタート。
参加者には軽度から中等度のうつ症状を抱える若年層が含まれています。
参加者を無作為に2つのグループに分け、一方には毎日少額のオンライン寄付(最低0.01元=0.2円程度)を自発的に行ってもらい、もう一方は何も介入を行わない対照群とし、これを約2カ月(8週間)にわたり実施しました。
参加者には週1回あるいは月1回、うつ症状や感情のポジティブさを測定するアンケートに回答してもらいました。
その結果、寄付を行ったグループでは、うつ症状が有意に軽減され、感情のポジティブさも向上することが示されたのです。
中には、うつ症状が実験前より50%以上軽減したり、臨床的なうつの基準を下回るスコアになったりするケースも多く見られました。

とくに注目すべきは、寄付額が非常に少額(1円以下)であっても効果が現れたことです。
この効果は、いわゆる「ウォームグロー(warm glow)」―善いことをしたときに得られる心の温かさ―によるものであると研究者らは指摘しています。
実際に寄付を行った人たちからは「気分が軽くなった」「たった1元の寄付でも誰かとつながっているような気持ちになった」「毎日の生活に意味が生まれた気がする」といった声が寄せられました。
これは寄付という行為が単なる経済的支援にとどまらず、人とのつながりや自己肯定感の回復に貢献していることを示唆しています。
また、最低金額よりも高いお金を寄付していた人は、うつ症状の改善効果が有意に高まっていたことを示されました。
1日たった数円の寄付であれば、多くの人が無理なく続けられると考えられます。
私たちの1日1円は、世の中の誰かを救う手助けとなるだけでなく、私たち自身の心の健康にもつながるかもしれません。
参考文献
Giving just one cent a day may help ease depression, study finds
https://www.psypost.org/giving-just-one-cent-a-day-may-help-ease-depression-study-finds/
元論文
Can One Donation a Day Keep Depression Away? Three Randomized Controlled Trials of an Online Micro-Charitable Giving Intervention
https://doi.org/10.1177/09567976251315679
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部