死んでいるはずのイカに醤油をかけると、激しく身をくねらせる凄まじい光景。
これは北海道・函館の「一花亭たびじ」で食べられる「活いかの踊り丼」です。
イカが急に動き出すこの衝撃的な料理は、海外でも「踊るゾンビイカ(dancing zombie squid)」として大きな話題となりました。
しかし、どうして死んだイカに醤油をかけると踊り始めるのでしょうか?
その科学的なメカニズムを解説します。
目次
- 新鮮すぎてイカの色素細胞がヒラヒラ動く
- 死んだイカが踊り始める科学的メカニズムとは?
新鮮すぎてイカの色素細胞がヒラヒラ動く
一花亭たびじが提供する「活いかの踊り丼」は、食材の鮮度を追求した日本ならではのメニューです。
日本では古くから、シロウオやエビ、ホタルイカといった魚介類を生きたまま食べる「踊り食い」の文化がありました。
「活いかの踊り丼」は、お客さんの注文を聞いて、水槽で泳いでいるイカをすくい出すところから始まります。
イカは直ちにまな板の上でスピーディーに捌(さば)かれ、頭部から切り離した胴体は職人さんの見事な包丁さばきで、たちまちイカそうめんにされます。
これをイクラやワサビなどの薬味とともに酢飯の上に並べ、さらに頭から下のイカ身を丸ごとドン!と乗っけたら完成です。
ついさっきまで水槽で泳いでいたイカは、ものの1分ほどで丼飯へと変身します。
胴体を切り離したことで脳機能が破損したため、すでに死んでいることは確かです。
しかしあまりに鮮度が高いので、近づいて見てみると、イカの色素細胞がヒラヒラと動いているのがわかりますし、わずかに足をくねらせることもあります。
ただ真に驚くべき現象は、醤油をかけた瞬間に起こります。
醤油を上からタラ〜とかけると、死んだはずのイカが勢いよく足をバタつかせ始めるのです。
イカはすでに死んでおり、脳機能も正常に働いていないので、これは醤油にびっくりして、自らの意思で動かしているわけではありません。
この現象は科学的に言うと、醤油の塩分とイカの細胞との神経反応によって起こるのです。
死んだイカが踊り始める科学的メカニズムとは?
死んだ直後のイカに醤油をかけると足が動く現象は、筋肉の反射的な収縮が原因です。
この現象は次のような科学的メカニズムによって発生します。
まず第一に、イカの足は筋肉細胞とそれを動かすための神経で成り立っています。
また死んだ直後だと、筋肉の細胞内にはしばらくの間、身体活動に必要なエネルギーである「ATP(アデノシン三リン酸)」が残っています。
次に、醤油には塩分(ナトリウムイオン)が含まれており、これが筋肉の細胞膜に触れると、膜を挟んだ内側と外側で電位差が生じます。
通常、筋肉細胞が活動していない状態だと、細胞膜の内側は外側に比べてマイナス(負)の電位を持っています。
ところがナトリウムイオンが細胞膜を通過して、内側に流入すると、一時的にプラス(正)の電位に変化するのです。
このようにして電位差が生じると、細胞膜にあるカルシウムチャネルという神経伝達の窓が開き、筋肉細胞内にあったカルシウムイオンが放出されます。
そして放出されたカルシウムイオンは、筋肉の収縮を司るタンパク質と結合することで、イカの意思とは無関係に足が自律的にバタバタと動き始めるのです。
※ 音量に注意してご視聴ください。
以上がイカの踊り出す科学的なメカニズムの全貌ですが、この筋肉の収縮反応を起こすには身体活動のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)が残っていなければなりません。
ATPは死んで時間が経つごとにどんどん失われていくので、イカの踊り現象を起こすにはやはり死んだ直後でなければならないのです。
ATPが尽きると、イカの動きは何をしても完全に止まってしまいます。
「活いかの踊り丼」のビックリ現象はイカの高い鮮度があってこそ成せる技なのです。
参考文献
The mysterious case of Japan’s ‘dancing zombie squid’
https://www.bbc.com/travel/article/20190130-the-mysterious-case-of-japans-dancing-zombie-squid
‘Dancing Squid’ Phenomenon: How Soy Sauce Brings A Dead Creature Back To ‘Life’ (VIDEO)
https://www.huffpost.com/entry/dancing-squid-dead-cuttlefish-soy-sauce_n_2663377
Shocktopuss! Horrifying moment squid comes back to life and jumps off plate
https://www.dailymail.co.uk/news/article-2023196/Shocktopuss-Horrifying-moment-squid-comes-life-jumps-plate.html
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部