毎日の生活の中で、音楽を聴くことは当たり前のように行われていますが、楽器を演奏する機会はあまりないかもしれません。
しかし東北大学の最新研究によると、グループで楽器演奏のセッションをすると健康寿命が伸びる可能性があることが示されました。
今回の研究は高齢者を対象としていますが、驚くべきは「楽器の未経験者」でも音楽セッションで認知機能や心理状態が改善したことです。
研究の詳細は2025年2月10日付で学術誌『Frontiers in Aging』に掲載されました。
目次
- 音楽は認知機能を高め、認知症リスクを下げる
- 楽器未経験でも音楽セッションで認知機能がUP!
音楽は認知機能を高め、認知症リスクを下げる

音楽が私たちの心や体に良い影響を与えることは、古くから知られています。
例えば、好きな音楽を聴くと気分が上がる経験は、誰もが毎日のようにしているでしょう。
研究によれば、音楽を聴くことでストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が抑えられ、リラックス効果が得られることがわかっています(Frontiers in Psychology, 2021)。
さらに、楽器演奏には単なる楽しみ以上の健康効果があると考えられています。
演奏は視覚・聴覚・触覚を同時に使いながら、リズムやメロディを調整する複雑な作業であり、脳の広範囲を刺激するため、認知機能の維持や向上につながる可能性が指摘されているのです。
実際に過去の研究では、長年楽器を演奏してきた高齢者は、そうでない人に比べて認知症のリスクが低いことが報告されています(NeuroImage, 2011)。
しかしこれらの研究の多くは長年楽器を演奏してきた人を対象としたものであり、楽器未経験の高齢者が新たに楽器を始めた場合にどのような効果があるのかは明らかにされていませんでした。
そこで今回の研究では、楽器未経験の高齢者がグループで楽器を演奏した場合に、脳や心の健康にどのような影響があるのかを検証しました。
楽器未経験でも音楽セッションで認知機能がUP!
研究チームは、65歳から74歳の楽器未経験の高齢者27名を対象に、無作為に音楽セッションに参加するグループと、通常の生活を続ける対照グループに分けました。
音楽セッションに参加するグループは、16週間にわたって毎週90分のグループレッスンを受けました。
レッスンでは、電子ドラム、電子ベースギター、電子キーボードの中から好きな楽器を選び、講師がピアノで伴奏するのに合わせ、参加者はそれぞれ簡単な演奏をするように指示されています。
初心者向けの指導が行われ、最初の1カ月は簡単な童謡からスタートし、最終的には「Let it Be」「上を向いて歩こう」などの曲をバンド形式で演奏しました。
16週間の介入前後で、認知機能と心理状態の変化を測定しました。
その結果、音楽セッションに参加したグループでは以下の改善が見られたのです。
・認知機能が有意に向上
・言語性記憶(耳で聞いた情報を記憶しておく能力)が向上
・気分の活気・活力スコアが向上
一方、対照グループではこれらの指標にほとんど変化が見られませんでした。
特に、楽器未経験者でもわずか16週間のグループセッションで認知機能が向上したという点は、非常に重要な発見です。

今回の研究で、楽器未経験の高齢者でも定期的な音楽セッションに参加することで、脳の健康を維持し、気分を向上させる効果があることが示されました。
特に、グループ演奏という形態が重要であると考えられます。
個人で楽器を演奏する場合とは異なり、グループでの演奏は他者との協調やコミュニケーションが求められるため、より多くの脳領域が活性化すると考えられます。
これは健康寿命を延ばすための新たなアプローチとして、非常に有望です。
今後の研究では、音楽セッションの神経生理学的なメカニズム(脳の変化)をMRIなどで詳しく解析することが期待されます。
また、より長期間の介入が可能か、どのような曲や楽器がより効果的かについても検討する必要があるでしょう。
音楽は単なる娯楽ではなく、脳と心の健康を守る強力なツールであることが、今回の研究で改めて示されました。
今からでも楽器を始めることで、人生がより長く、より豊かなものになるかもしれません。
参考文献
音楽セッションが脳と心の健康に与える効果を検証 グループでの楽器演奏活動が健康寿命延伸に寄与の可能性
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/03/press20250312-01-music.html
元論文
Effects of group music sessions on cognitive and psychological functions in healthy older adults
https://doi.org/10.3389/fragi.2025.1513359
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部