極右と極左の脳は驚くほど似た反応をすると判明!

心理学

アメリカのブラウン大学(Brown University)で行われた研究によって、「極右」と「極左」という真逆の思想を持つ人たちの脳が実は驚くほど同じように反応してしまうことが明らかになりました。

研究では被験者たちに感情的で過激な政治討論の映像を見せたときの脳活動が調べられており、その結果、他人の視点や感情の理解を司る脳の領域が、極端な思想を持つ人どうしで似たような活動パターンを示すことがわかりました。

特に強い感情を引き起こす「過激な言葉」を聞いた時には、この脳のシンクロ現象がさらに強まる傾向も示されたのです。

意見が対立しているはずの極左と極右の人々が、感情的には同じリズムを刻んでいる――これは、なぜ起こるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年8月28日に『Journal of Personality and Social Psychology』にて発表されました。

目次

  • 極左と極右は同じ香りがする
  • 真逆のはずの思想、なぜ脳活動が一緒なのか?
  • 思想の左右ではなく極端さが脳を似せる

極左と極右は同じ香りがする

極左と極右は同じ香りがする
極左と極右は同じ香りがする / Credit:Canva

世の中には、あまりにも考え方が違いすぎて、まるで水と油のような関係になってしまう組み合わせがあります。

たとえば、スポーツではライバルチーム同士、学校ならクラスの優等生と不良グループ、そして政治の世界なら「極端な左派(極左)」と「極端な右派(極右)」がまさにそれです。

お互いが互いを否定し合い、時には激しく攻撃し合う──。

そんな状況は、今やニュースやSNSでもよく見かける光景になっています。

実際、SNSの普及によって人々の意見が瞬時に共有されるようになると、議論がヒートアップし、より両者の間に「超えられない壁」が生まれてしまうことも増えました。

比喩的にいえば、磁石のN極とS極が互いに引き合うのとは逆に、思想が違いすぎてお互いを強く反発し合うわけです。

ところが、昔から一部の政治学者や社会学者は、まったく逆のことを言ってきました。

彼らは、「実は政治的に一番端っこにいる人同士は、考え方が違うようでいて本質的にはよく似ている」と主張しているのです。

この不思議な考え方は、ちょうど馬蹄(ホースシュー)の両端が互いに近づいていることに例えて、「ホースシュー・ポリティクス(蹄鉄理論)」と呼ばれています。

たとえば、有名な心理学の実証では、イデオロギーの方向(左/右)よりも、強度(どれだけ強く信じるか)が共通のふるまいを生むことが繰り返し報告されています

さらに同じグループの総説は、心理的な苦痛の高さ、世界を白黒で見る単純化、過度な確信(自信過剰)、異なる集団や意見への寛容性の低下という“極端さの共通プロファイル”を整理しており、左右端の似姿を理路整然と描きます。

加えて、陰謀論に傾きやすい心性は左右の“端”で強まりやすいというの関係が、26か国の大規模研究で確かめられています。

つまり、「極端に右寄り」と「極端に左寄り」の人々は、意見は逆でも、その思考や行動パターンは案外そっくりだ、ということを意味しています。

とはいえ、これはあくまで長年議論されてきた仮説のひとつで、生物学や脳科学レベルでは十分な証明が行われていません。

もし「思想の極端さ」そのものが、私たちの脳の動きを根本的に変えているとしたら?

政治的に過激な人の脳の働きが、本当に左右で似ているとしたら?

これは、社会的にも非常に重要で興味深い疑問です。

そこで今回の研究チームは、こうした疑問を解くために実験を実施しました。

実際に極端な思想を持つ人たちの脳の動きを計測することで、「極端な考え」が脳内で何を引き起こしているのか、また「両極端の人々は本当に脳レベルで共通しているのか」を明らかにしようとしたのです。

本当に、正反対のイデオロギーを持つ人々が、脳内で同じリズムを刻んでしまうような現象が起こり得るのでしょうか?

真逆のはずの思想、なぜ脳活動が一緒なのか?

逆のはずの思想、なぜ脳活動が一緒なのか?
逆のはずの思想、なぜ脳活動が一緒なのか? / Credit:Canva

今回の研究で、アメリカのブラウン大学の研究チームは、政治的に極端な思想を持つ人の脳の中で「何が起きているのか」を確かめるために、あるユニークな実験を行いました。

研究チームはまず、政治的に極端な考えを持つと自分で認識している44名を集めました。

ただし、実際に脳のデータ解析で用いられたのは最終的に41名でした。

参加者たちはMRI(磁気共鳴画像法:脳内の血液の流れを可視化する装置)を使って、自分たちの脳活動を測定されます。

このときに見せられた映像は、2016年のアメリカ副大統領候補同士の討論の一部です。

この討論はとても感情的で過激な言葉が飛び交っており、参加者の脳がどう反応するかを見るにはうってつけだったというわけですね。

また、脳だけでなく、皮膚電気反応(SCR:手のひらの汗の量で興奮度合いを調べる方法)も同時に測定されました。

つまり、言葉を聞いたときの心の動きを、脳と体の両方のレベルで捉えようとしたのです。

実験の最初の結果は、ある意味で予想通りでした。

政治的に刺激の強い内容では、思想が極端な人の脳の一部が特に強く反応していました。

具体的には、

不安や恐怖を感じる脳の中枢(扁桃体)

危険を感じたときの本能的な防御反応を司る部分(中脳水道周囲灰白質:PAG)

他人の意図や感情を理解する脳の部位(後部上側頭溝:pSTS)

などの感情や社会的な状況判断を担当する領域が非常に強く活動しました。

言い換えれば、極端な考え方を持つ人ほど、こうした脳の「感情のスイッチ」がより敏感に反応しやすい傾向があったということです。

しかし、本当に注目すべき驚きの結果はここからでした。

「極左」と「極右」という真逆のイデオロギーを持つ人同士を比べると、互いの脳活動がかなり似てくるという現象が見られたのです。

(※最終的に41人のデータが使われ、820通りの“ペア”(41×40÷2)を作って解析)

両者は思想が正反対なので、普通に考えると全く違う反応を示しそうです。

ところが実際には、「他人の考えを理解したり共感したりするのに重要」とされる脳の部位(頭頂側頭接合部TPJや前述のpSTS)が、両者で非常に似た動きを見せました。

さらに面白いのは、この「脳のシンクロ現象」が、特に過激な言葉を聞いたときに頭頂側頭接合部TPJで強まる傾向が見られたことです。

言葉が攻撃的になり、感情を刺激するほど、極端な考えの人たちの脳がさらに「同調」してしまうわけですね。

また、このシンクロ効果は脳だけでなく、「手汗の量が同じタイミングで増える」という身体レベルでも確認されました。

逆に、手汗の反応がズレていると、脳の同期も弱まるという結果でした。

つまり、「体と脳」がセットで反応するほど、極端な人たちは思想に関係なく、同じリズムで世界を感じてしまうということが見えてきたのです。

研究者らは、この現象が「感情の共有」によって引き起こされている可能性があると考えています。

極端な考えの人ほど、同じ刺激で同じように感情が高まり、その結果、脳まで同じパターンで反応してしまうというわけです。

言葉が感情の引き金を引き、脳と体が連動して「世界を同じように感じる」ようになるという現象──まさに言葉の火力で脳が寄り添ってしまう不思議なメカニズムだと考えられます。

思想の左右ではなく極端さが脳を似せる

思想の左右ではなく極端さが脳を似せる
思想の左右ではなく極端さが脳を似せる / Credit:Canva

私たちは普段、「極右」と「極左」の人々はまったく正反対の人種だと考えています。

まさに水と油、絶対に交わらない人たちだという印象ですよね。

でも今回の研究は、その当たり前の考えを根底から揺さぶるような、非常に興味深い発見をしました。

この研究が示したのは、極端な考え方を持つ人たちは、「意見が真逆であっても感じ方や反応パターンが似ている」という意外な現象があるかもしれないということを示唆しています。

今回の研究結果は、この考えを脳の働きという科学的な観点から新しい証拠として示しました。

たとえば、激しい政治的メッセージを聞いたとき、極右も極左も、脳の中では似たようなスイッチが入っていました。

つまり意見の違いの「外見」を取り払えば、内面では感情を掻き立てられた脳同士が驚くほど同じように反応している、というわけです。

とはいえ、この研究の結果をそのまま全ての状況に当てはめるには、いくつか慎重になるべき限界があります。

調査の対象はアメリカの成人だけで、ほかの国や文化圏の人が同じように反応するかどうかは、まだわからないのです。

あくまで、「脳が似た反応を示している」という関連性を示しただけで、その理由や原因は今後さらに掘り下げる必要があるのです。

それでも、この研究が示した結果は社会にとって非常に重要な意味を持っています。

現代社会では、政治的な意見の違いが深刻な分断を生むことが少なくありません。

しかし、この結果を踏まえると、「意見が違っても、感情的に反応する脳の仕組みは同じだ」と気づくことによって、互いを理解しようとするきっかけが生まれるかもしれません。

研究者たちも、この脳の仕組みをさらに詳しく理解することで、将来的に対立を和らげる手がかりを掴める可能性があると考えています。

最後に筆者の見解を述べるならば、極端な思想を持つ人同士というのは、同じ炎に引き寄せられる蛾のようなものではないかと思っています。

ただしその炎というのは、皮肉なことに、お互いを煽ってしまうような「過激な言葉」なのです。

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元論文

Politically extreme individuals exhibit similar neural processing despite ideological differences.
https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/pspa0000460

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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