アイスを食べ終わった後に残る木の棒。
すぐに捨てるのはもったいないかもしれません。
韓国・慶北大学校(KNU)の最新研究により、「木の棒を噛む」ことで記憶力が向上する可能性があると判明しました。
では、なぜ木を噛むことが記憶力に良い影響を与えるのでしょうか?
研究の詳細は2024年11月27日付で科学雑誌『Frontiers in Systems Neuroscience』に掲載されています。
目次
- なぜ「噛むこと」が脳に良いのか?
- 木の棒を噛むと記憶力がアップした⁈
なぜ「噛むこと」が脳に良いのか?
私たちは食事のたびに食べ物を噛んでいますが、これが脳にどのような影響を与えているのか、考えたことがあるでしょうか。
実はこれまでの研究で、咀嚼(そしゃく)は脳の血流を増やし、認知機能を高める可能性があることが示唆されてきました。
ある研究では、よく噛む人ほど認知機能が高く、高齢者のように歯が弱くなって噛む力が低下すると認知機能も衰えやすくなることが報告されているのです。
しかし「噛むこと」がどのようなメカニズムで脳に良い作用を与えるのかは、はっきりと解明されていませんでした。
そこで今回の研究では、噛むことが脳の「酸化ストレス」にどのような影響を与えるかに注目しました。

酸化ストレスとは?
私たちの脳は常に酸素を使って活動していますが、その過程で「活性酸素」という物質が発生します。
活性酸素は、脳細胞を傷つける「酸化ストレス」を引き起こし、認知機能の低下や老化の原因になるのです。
しかし脳はこの酸化ストレスから自らを守るために、「グルタチオン」という抗酸化物質を活用します。
グルタチオンは、脳のボディーガードのような役割を果たし、有害な活性酸素を中和する働きを持っています。
つまり、このグルタチオンのレベルを上げることができれば、脳の健康を維持し、記憶力の向上にもつながる可能性があるわけです。
そして研究チームは新たな実験で、木の棒を噛むとグルタチオンのレベルが上昇することを発見しました。
木の棒を噛むと記憶力がアップした⁈
今回の研究では、韓国の大学生52名を対象にガムを噛むグループ(27名)と木の棒を噛むグループ(25名)に分け、それぞれの脳のグルタチオンレベルを測定しました。
参加者は5分間、右の奥歯で一定のリズム(1秒に1回)で噛むという方法で咀嚼を行いました。
そして咀嚼前後の脳のグルタチオンレベルを特殊な脳スキャン技術を使って測定。
その結果、木の棒を噛んだグループでは、咀嚼後にグルタチオンレベルが有意に上昇していたことがわかったのです。
一方、ガムを噛んだグループでは、グルタチオンレベルにほとんど変化が見られませんでした。
さらに記憶力を測定するテストをしたところ、木の棒を噛んだグループでは、記憶力のスコアが有意に上昇していることが確認されたのです。
これは脳内におけるグルタチオンの増加が、記憶力の向上と関連している可能性を示唆しています。

では、なぜ「木を噛む」ことがガムよりも効果的だったのか?
研究者たちは、木の硬さが脳への刺激をガムよりも強くし、グルタチオンの生成を活発に促した可能性があると考えています。
今回の研究は、「硬いものを噛む」ことが脳の抗酸化機能を高め、記憶力向上につながる可能性を示した画期的な研究です。
現在のところ、脳のグルタチオンレベルを直接増やす薬は存在しません。
しかしこの研究によれば、日常的に硬い食品を食べることで、脳の健康を守ることができると期待されます。
ですから、アイスを食べ終わった後の木の棒もすぐに捨てず、しばらくガジガジ噛むと記憶力がアップするかもしれません。
参考文献
Chewing wood may boost memory and brain antioxidants, study finds
https://www.psypost.org/chewing-wood-may-boost-memory-and-brain-antioxidants-study-finds/
元論文
Effect of chewing hard material on boosting brain antioxidant levels and enhancing cognitive function
https://doi.org/10.3389/fnsys.2024.1489919
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部