私たち人類が住む「地球」を、外側から初めて目にしたのはいつだったのでしょうか。
月から捉えられた写真としては、1968年に撮影された青く輝く「地球の出(Earthrise)」の写真が有名です。
しかし実はその2年以上前、月を周回する無人探査機が、まだ白黒ながらも地球を撮影することに成功していました。
その瞬間は1966年8月23日。
アメリカ航空宇宙局(NASA)の「ルナ・オービター1号」が送信してきた写真が、人類史上初めて月から見た地球の姿を記録しました。
一体どんな写真だったのでしょうか?
目次
- ルナ・オービター1号の挑戦と「偶然の一枚」
- 最も有名な「アースライズ」の写真
ルナ・オービター1号の挑戦と「偶然の一枚」
1960年代、NASAはアポロ計画に向けて急ピッチで準備を進めていました。
人類を月に送り込み、安全に着陸させるためには、月面の地形を正確に把握し、着陸に適した場所を選ぶ必要がありました。
そこで立ち上げられたのが「ルナ・オービター計画」です。
無人探査機を月周回軌道に送り込み、写真を撮って地球に送信することが目的でした。
その先陣を切ったのがルナ・オービター1号。
1966年8月10日に米フロリダ州ケープカナベラルから打ち上げられ、約92時間後に月周回軌道へと投入されました。

搭載されたカメラは、露光したフィルムをその場で自動現像し、スキャンして電波で地球に送信できるという、当時としては革新的なシステムでした。
もともとは冷戦時代のアメリカが開発したスパイ衛星「サモス」に搭載されていた技術を応用したものだったという。
ルナ・オービター1号は1966年8月18日から29日にかけて撮影を行い、42枚の高解像度画像と187枚の中解像度画像を取得。
これによりおよそ500万平方キロメートルに及ぶ月面が撮影され、9か所のアポロ計画着陸候補地と7か所の予備候補地が記録されました。
そして16周目の軌道上、探査機のカメラがふと月の地平線をとらえた瞬間、予期せぬ光景が送られてきました。
白と灰色に揺らめく月面の向こうに、細い三日月の形をした地球が浮かび上がっていたのです。
それがこちら。

NASAによると、これは計画されていた撮影ではなく、いわば偶然の産物でした。
しかし、その一枚は人類が初めて「月から自分たちの惑星を見た」証拠となり、科学史に残る画期的な出来事となりました。
ルナ・オービター1号の任務は当初1年間の予定でしたが、姿勢制御用ガスの不足や機器の劣化が懸念され、後続探査機への電波干渉を避けるため、打ち上げから76日後の1966年10月29日に月の裏側へ意図的に衝突させられています。
最も有名な「アースライズ」の写真
一般的に「月から見た地球」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、1968年12月24日にアポロ8号の宇宙飛行士ビル・アンダースが撮影した「アースライズ(地球の出)」のカラーフォトです。
黒い宇宙空間に青く輝く地球が浮かび上がるその写真は、環境運動にも影響を与え、「かけがえのない地球」という意識を世界に広めました。

しかし科学的な観点から見れば、最初に月から地球をとらえたのは、やはりルナ・オービター1号によるあの白黒のざらついた写真でした。
1966年8月23日、マドリード近郊のロブレド・デ・チャベラ追跡局に送られたその画像は、技術的には「地球の出」の元祖といえるものです。
当時は今のように高性能なCCDカメラもなく、画質は粗く、白黒写真だったため、地球はかすんだ半月のように見えました。
それでも人類が初めて「自分たちの故郷を外から眺める」ことに成功した瞬間は、科学史における大きな一歩だったのです。
参考文献
The world’s first view of Earth from the moon, taken 59 years ago — Space photo of the week
https://www.livescience.com/space/the-moon/the-worlds-first-view-of-earth-from-the-moon-taken-59-years-ago-space-photo-of-the-week
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部