京都大学らの研究で、二枚貝に共生する新種の甲殻類が三重県・菅島(すがしま)の海底で見つかったと報告されました。
また、二枚貝に共生する種はきわめて稀であり、世界では6種目、日本国内では初とのことです。
研究の詳細は2025年9月26日付で科学雑誌『Zootaxa』に掲載されています。
目次
- 二枚貝の中に棲む「新種ヨコエビ」を発見
- 日本初の「二枚貝に共生するヨコエビ」
二枚貝の中に棲む「新種ヨコエビ」を発見
三重県・菅島の沿岸で行われた生物調査のさなか、研究グループの一人が二枚貝「ウスユキミノ(学名:Limaria hirasei)」を採集しました。
このウスユキミノは、日本近海の海底に生息する、ごく普通の二枚貝の一種です。
しかし、その触手や外套膜をよく観察すると、そこに小さなヨコエビ類(甲殻類端脚目の一群)が寄り添って暮らしているのを発見しました。
【実際の画像がこちら】
この小さなヨコエビは、世界中で159種以上が知られるマルハサミヨコエビ属の仲間。
通常、この仲間はホヤやカイメンのような生物と共生することが多く、二枚貝と共に暮らす例はほとんど報告されていません。
「日本国内で、二枚貝に共生するマルハサミヨコエビ属は今まで見つかっていない」
研究者たちはそう考え、採集した個体の“正体”を突き止めるため、細かな形態観察やDNA解析を進めました。
するとこのヨコエビは、既知のどの種とも一致しないことが判明しました。
特に、近縁種である「アカイセンマルハサミヨコエビ」と比べてみても、体の特徴や遺伝子配列に7カ所もの違いがあることが明らかになったのです。
こうして、この小さなヨコエビは“新種”として認められ、新たに学名「Leucothoe limidicola」(和名:ユキミノノマルハサミヨコエビ)と命名されました。
日本初の「二枚貝に共生するヨコエビ」

今回発見されたユキミノノマルハサミヨコエビは、世界でも6例目、日本初となる「二枚貝と共生するマルハサミヨコエビ属」です。
これは、進化の過程で“宿主”がどのように変化していくのか――すなわち「宿主転換」の進化ドラマを解き明かす上でも貴重な一例となりました。
たとえば、近縁種であるアカイセンマルハサミヨコエビはサンゴ礫やカイメンなどと共生する種です。
一方で、今回の新種は二枚貝と共生していました。
この違いから「自由生活性やカイメン共生性から、二枚貝共生性への移行」が、種の分化に影響した可能性が浮かび上がります。
身近な海底で進化の柔軟さと多様性が生まれている、その事実に研究者も驚きを隠せません。
また、マルハサミヨコエビ属は近年日本各地で続々と新種が見つかっており、「まだ誰も見つけていない生き物が、ごく身近な場所に潜んでいるかもしれない」と語る研究者もいます。
今回の発見は、私たちの生活圏に隠れた“未発見の生物多様性”の奥深さを物語っています。
参考文献
二枚貝類に共生する新種の甲殻類を発見―二枚貝共生性のマルハサミヨコエビ属は日本初―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-10-02
元論文
A new species of the genus Leucothoe Leach, 1814 (Crustacea: Amphipoda: Leucothoidae) associated with a limid bivalve from Sugashima Island, Japan
https://doi.org/10.11646/zootaxa.5696.4.6
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部