日本の石文化を象徴する国石「ヒスイ(翡翠)」の内部から、世界で未知だった新しい鉱物が見つかりました。
その名は「アマテラス石(学名:Amaterasuite)」。
日本神話の天照大神(あまてらすおおみかみ)にちなんだこの名は、結晶の中に“二つの顔”を同時に宿すという珍しい性質とも響き合っています。
研究の詳細は京都大学らにより、2025年8月7日付で学術誌『Journal of Mineralogical and Petrological Sciences』に掲載されました。
目次
- 日本から新鉱物「アマテラス」を発見
- 結晶の「二つの顔」を特定、アマテラス石の正体
日本から新鉱物「アマテラス」を発見
ヒスイは、単なる緑色の宝石ではありません。
主成分は「ヒスイ輝石」と呼ばれる鉱物で、プレート同士がぶつかる「沈み込み帯」という特殊な場所(代表的な場所の一つが、日本列島の深部)で作られます。
これは海のプレートが大陸の下にもぐり込み、高い圧力と低い温度にさらされる場所です。
その極限環境で岩石の中の元素が組み替わり、新しい鉱物が生まれることがあります。
つまりヒスイは、地球の奥で進む化学変化の“タイムカプセル”なのです。
ヒスイのごくわずかな部分には、ストロンチウム(Sr)やチタン(Ti)といった元素に富む微小な鉱物が含まれます。
これまでにも新潟県・糸魚川のヒスイから、蓮華石(Rengeite)や松原石(Matsubaraite)という新鉱物が発見されてきました。
研究チームは今回、岡山県・大佐山地域のヒスイを詳しく調べ、その中にも同じような特徴を持つ鉱物があること、さらにまったく未知の鉱物が複数含まれていることを突き止めました。
その一つが、今回「アマテラス石」として正式に認められた鉱物です。

新鉱物として認められるためには、「既知のどの鉱物とも違う」と証明する必要があります。
ポイントは、①化学組成(どんな元素がどんな割合で入っているか)と、②結晶構造(原子がどんな骨組みで並んでいるか)の両方です。
アマテラス石の理想的な化学式は、Sr₄Ti₆Si₄O₂₃(OH)Clという長々とした化学記号で表されます。
これは特定の金属元素(ストロンチウムやチタン)と酸素、ケイ素、水素、塩素が独特な割合で結びついたもので、これまで報告されたどの鉱物にも当てはまりません。
この事実は、沈み込み帯のヒスイの内部で、想定外の化学反応が起きている可能性を示しています。
文化財として親しまれてきたヒスイが、地球科学の発見の舞台にもなっている——それが今回の成果の魅力です。
結晶の「二つの顔」を特定、アマテラス石の正体
では、結晶構造のどこが特別なのでしょうか。
アマテラス石は、ひとつの「単位胞(たんいほう)」の中に、性質の異なる2種類の構造要素を同時に持っていました。
単位胞とは、結晶をつくる最小の“ひと組のブロック”のことです。
たとえるなら、同じ家(単位胞)の中に間取りの違う二つの部屋が同居しているような状態です。
このような「二面性」を持つ構造は理論的には予測されていましたが、自然界の鉱物で実際に観察されたのは今回が初めてでした。

命名にも、この二面性が深く関わっています。
新鉱物は、日本神話に登場し、日本を象徴する存在である天照大神 にちなんで「アマテラス石」と名付けられました。
天照大神が持つ「荒魂(あらみたま)」と「和魂(にぎみたま)」という二つの側面は、結晶構造の二面性と響き合います。
文化と科学が同じ名前で結びつく——そんな物語性も、この鉱物を特別なものにしています。
参考文献
新鉱物・アマテラス石の発見―日本の国石「ヒスイ」から見つかった新種の鉱物―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-08-07
元論文
Amaterasuite, Sr4Ti6Si4O23(OH)Cl, a new mineral from jadeitite, a representative stone of Japan
https://doi.org/10.2465/jmps.250420
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部