あなたの周りに、ADHD(注意欠如・多動症)の症状で苦しんでいる人はいますか?
その人はあなたの愛すべき親か子供、パートナー、友人かもしれません。
米国の臨床心理士のAlise Conner博士は、ADHDの人に伝えるべき重要な言葉を紹介しています。
その一言は、自己肯定感を高め、恥の感情を和らげ、関係性を深める可能性を持っています。
目次
- ADHDの人は自己肯定感が低くなりやすい
- ADHDの人に伝えるべき言葉
- タイミングと伝え方
ADHDの人は自己肯定感が低くなりやすい
ADHDは、注意のコントロールや衝動性の調整が難しい神経発達症で、子どもから大人まで幅広く見られます。
米国疾病対策センター(CDC)のデータでは、診断件数はここ数年で急増し、特に成人の診断が増えています。
そしてADHDの人は、幼少期から「落ち着きがない」「忘れっぽい」「ちゃんとやれない」といった言葉を浴び続けることになります。

これらは行動への批判に見えて、実際には人格や能力の否定として自分の中に深く刻み込んでしまいやすいものです。
その結果、ADHDの人の自己肯定感は低く、慢性的な恥の感情に苛まれやすくなります。
ちなみに、ADHDの人は脳内のドーパミン調節に特性があり、興味のあることには過集中できる一方で、そうでないことには注意が持続しにくいとされています。
また、デフォルトモードネットワーク(DMN)が活発で、飛躍的な発想や独自の連想が得意な反面、タスク切り替えに苦労することがあります。
このようにADHDの人は、短所に思える部分だけでなく、長所も持っています。
しかし、社会的評価や失敗体験の積み重ねによって「自分は壊れている」という否定的な自己像が形成されやすくなっているのです。
もしかしたら、私たちの愛する人が、ADHDの症状で苦しんでいるかもしれません。
では、そんな相手に何と言ってあげるべきでしょうか。
ADHDの人に伝えるべき言葉
Conner博士が提案する一言は、“I love how your brain works.”(あなたの脳の働きが大好き)です。
これは単なる「賢いね」や「面白いね」という褒め言葉とは違い、ADHDの特性そのものを肯定するメッセージです。
本人が欠陥だと思い込んでいる脳の働きを、そのまま魅力として認めることに意味があります。

似た表現には「あなたの考え方が好き」や「その発想力が素晴らしい」、「あなたの視点は他の人が思いつかない」などがあります。
このメッセージが有効な理由は、心理学的に「自己スキーマ(自分に関する認知の枠組み)」を書き換える効果があるからです。
多くのADHD当事者は「自分の脳は欠陥品だ」というスキーマを持ちますが、この言葉はその中核に直接ポジティブな情報を刻み込みます。
自分の脳がただ許容されているのではなく、愛されていると知ることで、「恥」の感情から解放されるのです。
その結果、安心感を与え、挑戦や創造的活動への意欲を高めます。
そしてこのような言葉は、ADHDの人との関係を前進させるのに役立ちます。
パートナー、親子、友人としての絆が深まっていくのです。
とはいえ、言葉をかけるタイミングを見極めることは非常に重要です。
タイミングと伝え方
「「あなたの考え方が好き」「その発想力が素晴らしい」といった誉め言葉をかける際、タイミングを見決めるべきです。
ミスや失敗の直後には避けたほうがよいでしょう。
その場合は慰めやフォローの言葉に聞こえ、効果が薄れます。
ベストなタイミングは、独自の視点で問題を解決したときや、他の人が気づかない点に気づいたとき、自然にユニークさを発揮しているときです。
伝えるときは、具体的な事例を添えて「さっきのアイデア、本当にユニークだった。私には思いつかない」と言うと良いでしょう。
言葉だけでなく、声や表情で伝えることが大切です。

また、一度きりではなく、自然に何度も伝えることで効果が蓄積します。
本心からの言葉であることが必須であり、無理に探すより、日常の中で心からそう思えた瞬間を見つけることが大事です。
注意点としては、「あなたの考え方は素晴らしいけど……」のように「否定形」で続けないことです。
前半の肯定を打ち消すことになります。
ここまで考えてきたように、ADHDの人は、自分の脳を「修理が必要な欠陥品」と感じがちです。
しかし、その脳は高い創造性、共感力、問題解決能力を秘めています。
「あなたの考え方が好き」という無条件の承認は、その可能性を解き放つスイッチになります。
あなたの一言が、愛するその人の自己肯定感を支え、新しい挑戦の扉を開くきっかけになるかもしれません。
参考文献
If You Love Someone with ADHD, You Need to Say This
https://www.psychologytoday.com/us/blog/authenticity-for-the-win/202507/if-you-love-someone-with-adhd-you-need-to-say-this
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部