私たちが住む世界には人間が知らない生物がまだまだ存在します。
そんな未知の生命との出会いが、今回また一つ、西オーストラリアの大地で記録されました。
オーストラリアのカーティン大学(Curtin University)の研究チームは、絶滅危惧種の野生植物を調査するなかで、かつて誰も見たことのない特徴を持つ新種のハチを発見しました。
その名も「Megachile (Hackeriapis) lucifer」です。
この蜂はメスの顔に“悪魔の角”のような突起を持っており、その独特な姿から“ルシファー”という名前が与えられたのです。
この発見は、2025年11月10日付の『Journal of Hymenoptera Research』誌に掲載されました。
目次
- 顔に「悪魔の角」を持つ新種ハチ「Megachile lucifer」とは?
- ”悪魔の蜂”はどんな経緯で発見されたのか?
顔に「悪魔の角」を持つ新種ハチ「Megachile lucifer」とは?
今回発見された「Megachile lucifer」は、ハキリバチ科に属する蜂です。(画像はこちら)
最大の特徴は、顔に大きくて鋭い2本の角(突起)が生えていることです。
また体も黒く、まるで物語や映画に登場する悪魔のようなルックスです。
この三角形の角は先端が尖っており、メスだけが持つため、オスには存在しません。
角の役割はまだ仮説段階ですが、研究チームよると、花へアクセスしやすくする、花の資源をめぐる競合相手を追い払う、巣の場所をめぐる雌同士の小競り合い、巣材(樹脂や砂など)の扱いなどの用途で用いられている可能性があるという。
昆虫ではオスが武器を持つ例が多いですが、メスだけが“角”を持つのは非常に珍しい現象です。
この蜂の学名「lucifer」は、ラテン語で「光をもたらす者」を意味しますが、見た目の“悪魔の角”にちなんで名付けられました。
名付けの背景には、発見時に研究チームのKit Prendergast博士がNetflixのドラマ『ルシファー』を視聴していたことがあります。
彼は『ルシファー』のキャラクターの大ファンでもあるので、この“悪魔の角”を持つ蜂を見つけた時に、「迷うことなく決めた」ようです。
蜂のルシファーは、分類学的にも独立した新種であることが確認されています。
DNAバーコーディング(遺伝子配列による種判定)によって、既知のどの蜂とも一致しないことが明らかになり、さらに博物館所蔵の標本とも形態的な一致が見つかりませんでした。
では、この新種の蜂はどのように発見されたのでしょうか。
”悪魔の蜂”はどんな経緯で発見されたのか?
このユニークな蜂の発見は、西オーストラリア州ゴールドフィールド地域のBremer山地にて、絶滅危惧野生植物「Marianthus aquilonaris」の調査がきっかけでした。
この野生花は、世界でもごく限られたエリアにしか生育していない、まさに“ご当地固有”の希少植物です。
2019年、研究チームはこの希少な花の花粉媒介者を採集していましたが、その際、「Marianthus aquilonaris」の花や、近くで満開を迎えていた「Eucalyptus livida」(ユーカリ属)の花を訪れている、今までに見たことのない特徴的な蜂を発見。
複数個体(メス・オス)を採集し、詳細な形態観察とDNA分析を進めた結果、新種と断定されたのです。
発見できたのは2019年11月2〜4日の数日間のみであり、2022年と2024年の10月調査では見つかりませんでした。
近隣や他の地域の調査、また過去の標本データベースやDNAデータベースを調べても同じ種は見つかっていません。
活動時期や分布域の狭さは、環境変化の影響を強く受けやすいことを意味します。
生態についてはまだ分かっていないことも多いですが、同属の他種と同様に木の空洞や倒木などを巣に使い、樹脂などで巣を封じると考えられています。
生息地は鉱山開発や火災、気候変動の影響を受けやすく、しかも主要な訪花植物の一つMarianthus aquilonarisは絶滅危惧です。
蜂と植物の双方が同じ狭い地域に依存しているため、どちらか一方の打撃が連鎖しかねません。
この発見は「新種が発見された」というニュース性だけでなく、花粉媒介者と植物のつながり・生態系の多様性・生物多様性保全の重要性を考えるうえで、きわめて大きな意義を持っています。
自然界には、”まだ人間が知らない生命”が潜んでいます。
「悪魔の角を持つ蜂・ルシファー」の発見は、好奇心と観察眼、地道な現地調査の力がいかに大切か、そして、貴重な生物を守っていくことの重要性を改めて教えてくれます。
参考文献
Devilishly distinctive new bee species discovered in Western Australia Goldfields
https://phys.org/news/2025-11-devilishly-distinctive-bee-species-western.html
元論文
Megachile (Hackeriapis) lucifer (Hymenoptera, Megachilidae), a new megachilid with demon-like horns that visits the Critically Endangered Marianthus aquilonaris (Pittosporaceae)
https://doi.org/10.3897/jhr.98.166350
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

