まるで時を超えて飛来したかのようなトンボの翅(はね)が、カナダの地層から姿を現しました。
カナダ・マギル大学(McGill University)の研究チームは、同国アルバータ州にある世界的な恐竜化石の産地「州立恐竜公園」で、白亜紀後期に生きていた新種のトンボの化石を発見しました。
この化石は、北米における恐竜時代のトンボの初めての記録であり、さらにトンボ進化史の約3,000万年間の空白を埋める重要な発見です。
研究の詳細は2025年8月1日付で科学雑誌『Canadian Journal of Earth Sciences』に掲載されています。
目次
- 白亜紀地層から見つかった小さな翅の化石
- トンボ進化史の空白を埋める存在に
白亜紀地層から見つかった小さな翅の化石
今回の化石が見つかったのは、約7,500万年前(カンパニアン期)の白亜紀地層です。
この地層は恐竜の骨が数多く出土することで知られていますが、昆虫の化石はほとんど見つかっていませんでした。
これまでに報告されたのは、琥珀に閉じ込められた顕微鏡サイズのアブラムシが1例のみで、昆虫の印象化石はゼロでした。
そんな中、2023年、マギル大学の学部生が脊椎動物古生物学の実習で岩を割っていたところ、部分的な翅の印象化石が現れました。
周囲からは多くの植物化石が見つかっていましたが、昆虫化石は予想されていなかったため、現場は驚きに包まれたといいます。

この化石は、後翅の一部で、幅は約14ミリ、長さは約17ミリ。
精密な観察と翅脈の解析により、既知のどのトンボ科にも当てはまらない特徴が確認されました。
特に、翅の静脈の細かさや配列の独自性など、多数の形質が既存の科や属と異なる組み合わせであることが挙げられています。
研究チームは、この化石を新属・新種として「コルドゥアラデンサ・アコルニ(Cordualadensa acorni)」と命名しました。
そして分類上の独自性から、新たに Cordualadensidae(コルドゥアラデンサ科) という科まで新設しています。
種小名「acorni」は、長年にわたりアルバータ州の自然史を広めてきた昆虫学者でサイエンス・コミュニケーターのジョン・エイコーン氏に敬意を表したものです。
トンボ進化史の空白を埋める存在に
この発見が特に注目されるのは、進化史的な位置づけです。
今回の新種は、現生種も含む大型グループ Cavilabiata(カヴィラビアータ) に属し、北米で最古の記録となります。
これにより、白亜紀後期におけるトンボの系統分布と進化の理解が大きく進みました。

さらに、この翅の構造は滑空飛行に適応していたことを示しています。
現代の渡りトンボ類にも見られる形質であり、この種が長距離移動や特定の生態的ニッチを利用していた可能性が考えられます。
恐竜が地上を闊歩していた時代、空ではこうしたトンボが獲物を探し、あるいは恐竜や翼竜に捕食される存在として食物網の一端を担っていたと推測されます。
また、この化石は、州立恐竜公園の白亜紀地層における昆虫化石の新たな保存形態(印象化石)の初記録でもあります。
これにより、昆虫の多様性や保存環境について新たな探索の道が開かれました。
チームは今後、発掘範囲や手法を広げることで、さらに多くの昆虫化石が見つかる可能性が高いとしています。
参考文献
McGill team discovers Canada’s first dinosaur-era dragonfly fossil
https://www.mcgill.ca/newsroom/channels/news/mcgill-team-discovers-canadas-first-dinosaur-era-dragonfly-fossil-366386
元論文
New family of fossil dragonfly (Odonata, Cavilabiata) from the late Cretaceous (Campanian) Dinosaur Park Formation, Alberta, Canada
https://doi.org/10.1139/cjes-2024-0162
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部