今から約2億4000万年前、そこにはまだ恐竜たちは誕生していませんでした。
しかし、恐竜によく似たハンターはすでに存在していたようです。
このほど、ブラジルで発見された化石がワニの祖先の新種であることが、ブラジル・サンタマリア連邦大学(FUSM)の研究で明らかになりました。
新たに「タインラクアスクス・ベラトール(Tainrakuasuchus bellator)」と名付けられた本種は、鋭い歯とアーマーのような装甲を備えていたとのことです。
研究の詳細は2025年11月12日付で科学雑誌『Journal of Systematic Palaeontology』に掲載されています。
目次
- 恐竜以前の「支配者」を発見
- 多様な捕食者が共存した三畳紀
恐竜以前の「支配者」を発見
この驚きの発見がなされたのは、ブラジル南部のドナ・フランシスカ市で行われた発掘調査でした。
岩石に包まれて見つかったのは、全長約2.4メートル、体重約60キログラムと推定される大型爬虫類の部分骨格。
下顎、脊椎、骨盤帯が良好に保存されており、特に背中には「オステオダーム」と呼ばれる骨質の板、つまりは現代のワニにもみられる装甲の痕跡がはっきりと確認されました。
この生物は「偽鰐類(ぎがくるい、Pseudosuchia)」と呼ばれるグループに属し、恐竜が出現する以前の三畳紀、2億4000万年前の地球でトップクラスの捕食者だったと考えられています。
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その見た目は恐竜と非常によく似ており、首が長く、細長い顎には鋭く湾曲した歯がぎっしり並んでいました。
しかし骨盤の構造や股関節の特徴から、実際は恐竜の仲間ではなく、ワニやアリゲーターなど現生ワニ類の祖先にあたる存在だったことが判明しています。
新種に与えられた学名「タインラクアスクス・ベラトル」は、ブラジル先住民族グアラニー語の“tain(歯)”と“rakua(尖った)”に、ギリシャ語の“suchus(ワニ)”、さらにラテン語の“bellator(戦士)”を組み合わせたもの。
その名のとおり「尖った歯を持つ戦士ワニ」という意味を持ち、ブラジル・リオグランデ・ド・スル州で近年起きた洪水被害に立ち向かった人々への敬意も込められています。
多様な捕食者が共存した三畳紀
本種が生きていた三畳紀は、陸上脊椎動物が大進化を遂げ、多様なグループがせめぎ合った時代です。
当時の超大陸パンゲアでは、アフリカや南米といった現在の大陸はまだつながっており、生物は自由に大地を行き来していました。
偽鰐類の仲間たちは、大型で頑丈な獲物にも挑むパワフルな捕食者から、素早い動物を巧みに追う小型ハンターまで、さまざまな生存戦略で生態系に君臨していました。
タインラクアスクス・ベラトールもその一員で、長い首と敏捷な四肢(化石は残っていませんが、近縁種から四足歩行と推定)、鋭い歯を活かし、素早く的確に獲物を仕留めていたと考えられます。
しかし意外なことに、本種はその時代の「最大の捕食者」ではありませんでした。
同じ生態系には全長7メートルもの巨大ハンターも存在しており、“戦士ワニ”は中堅クラスの狩人だったのです。
それでも、オステオダームによる鎧のような防御は、当時の厳しい環境や大型捕食者との競争の中で大きな武器となっていたでしょう。
偽鰐類は多様性に富んでいるものの、化石記録上は極めて稀で、まだ多くの謎に包まれています。
今回の発見は、当時の生態系の複雑さや適応戦略を解き明かす大きな手がかりになります。
参考文献
240 million-year-old ‘warrior’ crocodile ancestor from Pangaea had plated armor — and it looked just like a dinosaur
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/240-million-year-old-warrior-crocodile-ancestor-from-pangaea-had-plated-armor-and-it-looked-just-like-a-dinosaur
Newly discovered predatory “warrior” was a precursor of the crocodile – and although it lived before the early dinosaurs, it looked just like one
https://newsroom.taylorandfrancisgroup.com/newly-discovered-predatory-warrior-was-a-precursor-of-the-crocodile-and-although-it-lived-before-the-early-dinosaurs-it-looked-just-like-one/
元論文
Osteology, taxonomy and phylogenetic affinities of a new pseudosuchian archosaur from the Middle Triassic of southern Brazil
https://doi.org/10.1080/14772019.2025.2573750
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
