ブラジル北東部アラリペ盆地で見つかった一見ただの石の塊から、驚くべき事実が明らかになりました。
同国のリオ・グランデ・ド・ノルテ国立大学(UFRN)は、この石の塊が大型捕食者の吐き出した「嘔吐物」の化石であることを特定。
そして、その中から発見された骨から「新種の翼竜」を見つけたのです。
研究の詳細は2025年11月10日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 嘔吐物から甦った「新種の翼竜」
- 翼竜の進化の空白を埋めるピースに?
嘔吐物から甦った「新種の翼竜」
今回の化石は、白亜紀前期(約1億1000万年前)の地層から発見された嘔吐物の化石です。
そしてその内部に、翼竜2個体分の顎片と4匹の魚が押し固められるように保存されていました。
研究チームはまず、この不自然な骨の密集状態と、魚がすべて“頭を同方向に向けて”配置されている点に注目しました。
この特徴は、現代の魚食性の鳥類が消化できなかった骨をまとめて吐き戻す「吐き戻し現象」とよく似ています。
さらに、翼竜の顎骨の一部には噛み砕かれた痕があり、消化による腐食がほとんど見られないことから、捕食者が食べてすぐに吐き出した可能性が高いと判断されました。
そして、この嘔吐物の中に含まれていた細長い顎の断片や極端に細かい歯の特徴を詳細に調べたところ、それが既知のどの翼竜とも一致しない「新種」であることが明らかになりました。
そこでチームは、新種の翼竜を「バキリブ・ワリッザ(Bakiribu waridza)」と命名しています。
【新種の復元イメージがこちら。背景にいる恐竜は、翼竜を食べたとみられる捕食恐竜】
バキリブ・ワリッザの顎は非常に細長く、1センチに17本以上という密度で細い歯が並びます。
推定される総歯数は上下左右を合わせて400本以上。
歯の断面が四角形に近い「櫛のような歯」をしており、この特徴は既存のどの翼竜にも見られないもので、この種が高い濾過能力を持つ特殊な生態に適応していたことを示唆します。
翼竜の進化の空白を埋めるピースに?
系統解析の結果、バキリブ・ワリッザは、アルゼンチンで知られる濾過食翼竜「プテロダウストロ」に最も近いグループに属すると判明しました。
両者は密な歯列を共有していますが、バキリブは歯の断面形や密度が中間的で、より原始的な特徴と高度な濾過能力の両方を持つ“進化の橋渡し”的存在であることがわかりました。
さらに地質学的背景から、この翼竜は穏やかな湖沼環境で生活していた個体が肉食の捕食者に食べられ、別の場所まで運ばれた後に吐き戻されたと考えられています。
では、翼竜を飲み込み、魚もまとめて吐き出した捕食者とは何だったのでしょうか。
研究チームはその有力候補としてスピノサウルス類を挙げています。
化石が見つかった地層は、スピノサウルス類の化石が多数見つかっており、翼竜を捕らえた直接証拠(翼竜の骨に刺さったスピノサウルスの歯)もあります。
スピノサウルス類は魚食性で知られ、翼竜の細い骨を飲み込んでから吐き戻した行動も十分に考えられるとされます。
参考文献
Bizarre New Species of Flying Reptile Discovered in Fossilized Dinosaur Vomit
https://www.sciencealert.com/bizarre-new-species-of-flying-reptile-discovered-in-fossilized-dinosaur-vomit
元論文
A regurgitalite reveals a new filter-feeding pterosaur from the Santana Group
https://doi.org/10.1038/s41598-025-22983-3
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

