自分が「恋愛する準備ができているかどうか」は、自分自身が一番よく知っている――そう思いたいものです。
ですがアメリカのミシガン州立大学(MSU)を中心とした研究によって、「恋愛の準備ができているか」という個人の主観的な感覚は、友人の目にもかなりの程度映し出されていることが示されました。
ただし、本人の自己評価は友人の評価よりもわずかに高く、自分の「いけるはず」をやや高めに評価する傾向があることも分かりました。
この結果は本人が恋愛する気満々でも、周りからみたら「ちょっと考え直そうか」と思われてしまう場合があることを示しています。
さらに不安型や回避型といった愛着の傾向が強く見える人ほど「まだ恋愛には準備不足」と見なされやすいことが示されました。
あなたの「準備OKサイン」は友だちの目にどう映っているのでしょうか?
研究内容の詳細は『Journal of Social and Personal Relationships』にて発表されました。
目次
- 『恋愛OK』の自己判断はアテにならない?
- 友人が判定する『まだ恋愛は無理』とされる人の特徴
『恋愛OK』の自己判断はアテにならない?

「この人、まだ恋愛には踏み込めないんじゃないか?」――仲の良い友人について、そんな風に感じたことはありませんか?
あるいは逆に、失恋で落ち込んでいる友人に対して「そろそろ次の恋に進めそうだね」と背中を押した経験は?
私たちは日常的に、友だち同士でお互いの恋愛の準備状況をなんとなく感じ取り、アドバイスし合っています。
実はこの「友人による評価」が、当人の自己評価とかなりよく重なることがこの研究でも確認されています。
人は誰しも、親しい仲間からさまざまな影響を受けています。恋のチャンスも例外ではありません。
友人は恋人の紹介役にもなれば、「まだあの人には早いかも」と交際を控えさせるストッパー役にもなります。
実際、友人から「まだやめておきなよ」と思われていると、新しい出会いを紹介してもらえなかったり、せっかくの恋が密かに邪魔されてしまったりするかもしれません。
筆者もかつて旧友にいい人を紹介してくれと頼みましたが、旧友は長年の友好関係を本物としつつも「すまない、お前にだけは紹介できない」と諭してくれました。
コラム:恋愛に及ぼす友人の影響
恋愛はカップル当人たちの問題だとはよく言われます。しかし2012年に行われた研究では、友人の賛成・反対が「誰とデートしたいか」「どちらが好きか」といった判断にはっきりした影響を持っていることが示されています。これは恋愛の始まる前段階で友人の影響が既に始まっていることを示しています。また2020年の思春期の女子を調べた研究では初めての恋人ができるかどうかは友達の間で人気が高いことが大きな予測因子になりました。さらに恋愛が始まってからも友人の影響は大きく、2001年に行われた研究では、友人などから支持されているカップルほど満足度・愛情などが高く、別れにくいという関連が一貫して出ています。また最近の研究でも周りの友達の承認度の影響は、カップルたち本人の性格特性や関係の質と同じかその次くらいのレベルで満足度や安定度に重要であることが示されています。これらの結果は、もし恋人を作ったり恋人との関係を維持したいなら、友人たちの支えを得ることが重要であることを示しています。
つまり、恋愛において友人たちの見る目は無視できない重要な要素なのです。
では、肝心の「恋愛の準備ができているかどうか」という判断について、友だちはどれほど当たっているのでしょうか?
本人と友人の判断は一致するのか?
そしてもし一致するなら、その「準備できてる!」というサインは一体なぜ周りに伝わるのでしょうか?
友人が判定する『まだ恋愛は無理』とされる人の特徴

こうした疑問を調べるため、米ミシガン州立大学を中心とした研究チームは、若年成人からなる友人グループを対象に調査を行いました。
総勢772人の参加者を4人ずつの仲良しグループ(合計193グループ)に分け、各自が自分自身の「恋愛の準備度」と、友だち全員それぞれの「恋愛の準備度」を評価しました。
(※心理学では、こうした感覚を「コミットメント準備度(commitment readiness)」という言葉で扱います。)
さらにそれと同時に、「愛着不安」「愛着回避」と呼ばれる恋愛傾向(いわゆる不安型・回避型の愛着スタイル)の程度についても、自己評価と友人評価を集めました。
愛着不安とは「恋人に嫌われたり捨てられたりすることへの不安の強さ」、愛着回避とは「他人にべったり頼ることを避けたい傾向」のことです。
誰かが「お付き合いに入る準備ができているか」は、こうした愛着スタイルと結びついている可能性があるため、併せて検証されたのです。
分析にあたって研究チームは、各参加者が他の友人たちから受けた評価を統計モデルで分解し、「評価する側の傾向(Perceiver効果)」「評価される本人固有の特徴(Target効果)」「特定の組み合わせごとの関係性(Relationship効果)」などの要因に分けました。
これによって、「みんなが一致してその人をどう見るか」といったコンセンサスの度合いや、評価者本人の思い込みの影響などを客観的に測定できます。
特に「恋愛準備度」について、この分解がどのようになるかが注目されました。
その結果、(幸いなことに)自己申告と友人評価の間にはある程度の相関があることがわかりました。
つまり自分が大丈夫だと思っている人は、友達からも「ある程度は大丈夫」だと思われる傾向にあったのです。
しかし悲しいことに、それは完全一致ではなく、平均的にみて自己評価は友人評価よりも少し高めに出る傾向にあることも示されました。
つまり本人は大丈夫だと思っていても、友人評価ではアウトな場合が、往々にしてみられたのです。
さらに興味深いのは、こうした友人からの評価と「愛着スタイル」の間に見られた傾向です。
分析の結果、その人の愛着不安傾向や愛着回避傾向が高いほど、友人たちから「恋愛の準備がまだできていない」と見なされやすいことが示されました。
言い換えれば、周囲から「あの人はまだ本気の恋は無理そう」と思われている人は、たとえば「恋人に嫌われるのが怖い…」という不安が強かったり、「一人の時間も大事だし…」と親密な関係を避けがちだったりする傾向があるのです。
これは心の中に抱える不安や避けたい気持ちが、その人の言動や表情に表れてしまい、「まだ恋に踏み込める状態じゃないな」と周りに感じ取られてしまっている可能性を示しています。
ところで、他人のことをあれこれ評価している友人たち自身はどうでしょうか。
実はこの研究にはもう一つユニークな発見がありました。
「自分は恋愛の準備ができている!」と思っている人ほど、友人に対しても「この人もきっと準備できているはずだ」と思い込みやすい傾向が確認されたのです。
心理学でいう「仮定された類似性(assumed similarity)」ですが、自分の特性を他人に投影して判断してしまうバイアスが働いていたと考えられます。
今回の研究により「恋愛の準備度」という一見すると本人にしかわからなそうな主観的な感覚が、実は社会的なネットワークの中で共有されていることを示しました。
言い換えれば恋愛に向かう準備ができているかどうかは本人の主観だけでなく、周りの友人たちの目にもかなり共通したかたちで映し出されているということです。
友人たちの何気ない一言(「もう次の恋してもいいんじゃない?」とか「まだやめておきなよ」など)は、科学的に見ても侮れない洞察を含んでいるのかもしれません。
もし思い当たる節があるなら、自分の内面に向き合ってみるのも良いでしょう。
研究者たちも「若者たちが恋愛について悩む際にぜひ親しい友人とのオープンな対話を活用してほしい」と述べています。
恋のスタートラインに立つとき、「準備OKサイン」を一番先に見つけてくれるのは案外あなた自身ではなく、隣で見守っている友だちなのかもしれません。
参考文献
Ready (or not) for love? Your friends likely agree
https://www.eurekalert.org/news-releases/1073214
元論文
Ready (for love) or not? Self and other perceptions of commitment readiness and associations with attachment orientations
https://doi.org/10.1177/02654075251317920
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

