恋人に”与えすぎて”関係が壊れる人の特徴とは?

恋愛関係において相手に「与える」ことは大切ですが、そのバランスが崩れると、かえって関係を壊す原因になることがあります。

米国の心理学者マーク・トラヴァース博士(コーネル大学およびコロラド大学ボルダー校で学位取得)は、「与えすぎ(overgiving)」 という概念を紹介しています。

これは、恋愛において必要以上に尽くしすぎることで、自分の境界線を失い、関係を不健康にしてしまう状態を指します。

トラヴァース博士によれば、恋愛における努力は本来、双方がバランスよく示すべきものであり、一方に偏ると不満や不安が生まれ、やがて関係自体が揺らいでしまう可能性があります。

今回は、研究に基づく「与えすぎの2つのサイン」について詳しく見ていきましょう。

目次

  • 与えすぎのサイン①:「不満や憤り」
  • 与えすぎのサイン②:「過剰補償」

与えすぎのサイン①:「不満や憤り」

まず理解すべきは、「与えすぎ(overgiving)」とは単に親切にすることではなく、「相手のために自分を犠牲にし続ける行動」 を意味するという点です。

たとえば、相手のために自分の時間や体力をたくさん使ったり、気持ちの面でも相手を思いやり続けたり、何度も許したりチャンスを与えたりします。

そうしたことが重なると、自分が疲れきってしまうのです。

この「与えすぎ」のサインの1つが、関係における「不満や憤り」です。

たとえば、「休日のたびに自分の希望を抑えて相手に合わせたり、相手が落ち込んでいるときには何時間も慰め続けるのに、自分が弱ったときにはほとんど気にかけてもらえない」と感じるでしょうか。

そんな経験が続くと、「私ばかり頑張っている」という感情が募り、やがて愛情が苦い思いに変わってしまいます。

この現象は、研究でも裏付けられています。

2014年に795組の既婚カップルを対象に行われたブリガムヤング大学(BYU)の研究では、配偶者の努力をどう認識しているかが、夫婦の満足度や離婚リスクに直結することが示されました。

努力が双方に感じられないと、不満が積み重なり関係は揺らぎやすくなるのです。

さらに2022年の西南大学(Southwest University)実験研究では、72人の参加者が「冷水に手を入れる課題」に挑戦し、恋人のためであれば友人のためよりも長く痛みに耐えることが確認されました。

これは「愛する人のためなら犠牲を厭わない」という人間の特性を示しています。

だからこそ、犠牲が一方的な状況も生じやすく、これが続くことで心理的な負担が膨らみやすいことも示唆しています。

つまり、愛情に基づく犠牲は自然な行動ですが、見返りがまったくない状態で続けば、不公平感が強まり、関係そのものを不安定にしてしまうのです。

では、自分の「与え方」を見直すためには、どうすれば良いでしょうか。

たとえば、「私は本当に心から与えたいから行動しているのか、それとも相手にもっと好きになってほしいからやっているのか?」 「この行動自体で自分が満たされるのか、それとも何かお返しを期待しているのか?」 と、立ち止まって自分に問いかけてみましょう。

もし「愛されたいから頑張ってしまう」という気持ちが強い場合は、いったん立ち止まることも大切です。

自分が本当に望む与え方や、無理のない範囲を見つめ直すことで、より健康的な関係に近づくことができます。

与えすぎのサイン②:「過剰補償」

与えすぎの2つ目のサインは、「過剰補償(overcompensation)」です。

これは「自分は十分でない」と感じる不安から、必要以上に相手に尽くしてしまう行動を指します。

本来は相手がやるべき仕事や用事を肩代わりし、「自分が役立てば愛されるはず」と思い込んでしまうこともあります。

2025年のテルアビブ大学(Tel Aviv University)の研究では、1000人以上の若年成人を対象に「恋愛における恐れ」が調査されました。

最も一般的だったのは「無能であることに対する恐れ」、つまり「相手の期待に応えられないのではないか」という不安でした。

そして、この不安こそが、過剰補償を引き起こす主要因であると指摘されています。

このような不安を抱える人は、自分の価値を「相手に何をしてあげられるか」に依存してしまうため、求められていない行動まで「やらなければ愛されない」と感じてしまいます。

こうした過剰補償は一見「献身的」に見えますが、実際には不安に駆り立てられた行動です。

相手にとっては「重さ」や「圧力」として伝わり、かえって関係が悪化するリスクが高くなります。

では、過剰補償に気づいたときはどうしたらよいのでしょうか。

まずは深呼吸して、自分に次のような問いかけをしてみましょう。

「私は、相手が離れてしまいそうだから、必死に与えていないか?」「最初は自然にやっていたのに、今は不安や焦りで与えすぎていないか?」「もし自分がもっと安心していられたら、同じことをするだろうか?」

こうした問いかけを通して、自分の「与える理由」をこまめに見直すことが大切です。

確かに、恋人に「与える」ことは愛情表現の一つですが、それが過剰になれば不満や不安を生み、やがて関係を破綻に導きます。

研究が示すように、健全な関係を保つには「努力の相互性」が欠かせません。

自分が与えている理由が「心からの愛情」なのか「愛されたい恐怖」なのかを振り返り、行動を見直すことが、バランスの取れた関係を築く第一歩となるのです。

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参考文献

2 Signs You’re ‘Overgiving’ in Your Relationship
https://www.psychologytoday.com/us/blog/social-instincts/202509/2-signs-youre-overgiving-in-your-relationship

元論文

An Actor-Partner Model of Relationship Effort and Marital Quality
https://doi.org/10.1111/fare.12096

Beyond reciprocity: Relational sacrifices in romantic partners
https://doi.org/10.1177/02654075221080997

Who Is Afraid of Romantic Relationships? Relationship Fears and Their Connection with Personal Values and Socio-Demographic Variables
https://doi.org/10.3390/bs15020191

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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