今日、世界中の人々が非常にストレスフルな時代を生きており、経済状況や政治の混乱について深く不安を感じています。
ネットやSNSを見ていても、目につくのは戦争や不況などの嫌なニュースばかりです。
そんな中で、米ゴンザガ大学(Gonzaga University)の社会心理学者サラ・アルゴー(Sara Algoe)氏は「精神的なレジリエンス(回復力)を高め、うつ病リスクを低下させる効果的な方法がある」と指摘します。
それが「感謝の実践」です。
感謝の念を抱くことが、幸福感や生活満足度を高めることは過去の研究で十分に示されています。
そしてアルゴー氏は、誰でも今すぐに実践できるシンプルな感謝の方法について解説しています。
目次
- 感謝の念を抱くと「うつ病リスク」が低下する
- 感謝を実践する2つの方法
感謝の念を抱くと「うつ病リスク」が低下する

一般的に、ネガティブな情報はポジティブな情報よりも強く注意を引きます。
この差は非常に強力で、「否定性バイアス」と呼ばれています。
研究者たちは、これが進化の適応の結果だと考えています。つまり、危険に敏感であることが生存のために不可欠だったのです。
しかしそのために、他人の親切さやこの世界の美しさに気づかないまま一日を終えてしまうこともあります。
それは私たちにとって大きな損失です。
感謝とは、ポジティブな感情として経験されるものです。
それは友人や家族はもちろん、見知らぬ人や神様のような高次の存在、あるいは自然や地球そのものなどが、友情や経済的支援、生きがいといった価値ある何かを与えてくれたと気づくことで生じます。
過去の研究でも、誰かや何かに対して感謝の気持ちを抱くと、幸福感や人生満足度が高まり、うつ症状が軽減することがわかっています(Personal RELATIONSHIPS, 2010)。
特にストレスの多い時代には、意識的にポジティブな出来事に目を向ける努力が、心の健康を支える大きな鍵となるのです。
では、日常的に感謝を実践するにはどのような方法がいいのでしょうか?
アルゴー氏は、主に2つの方法を挙げています。
感謝を実践する2つの方法
ありがたいことに、感謝の気持ちはトレーニングによって育てることができます。
生まれつき感謝しやすい人もいますが、誰でも意識的な練習によって、感謝を感じ取る力を高めることが可能です。
その方法のひとつが「感謝リスト」を作ることだといいます。
毎日、その日に誰かのおかげでうまくいった小さな出来事、あるいは誰かの行動で助けられた出来事をいくつか書き出すだけで構いません。
もちろん、感謝の対象は人ではなく、動物や自然でも大丈夫です。
これによって、ポジティブな出来事が一層意識に上り、記憶に残りやすくなります。
一方で、ニュースやSNSで目にするネガティブな話題は、放っておいても私たちの注意を引きます。
だからこそ、ポジティブな面に意図的に目を向ける習慣が必要なのです。
アルゴー氏は日記形式にすると効果があるといいますが、それが面倒であれば、感謝を箇条書きにするリストでも構わないといいます。

ただ、書くこと自体が煩わしいと感じる人も多いでしょう。
そうした人たちは「他人がもたらしてくれたポジティブな出来事を意識して探す習慣をつける」だけでも十分に効果があるとアルゴー氏は話します。
本当に些細なことでかまいません。
例えば、電車を降りる際に誰かが避けて通れるようにしてくれたとか、大事な日に空が晴れてくれたとか、当たり前のように見えて、私たちの身のまわりには感謝の気持ちを抱くことのできる出来事がたくさんあります。
そうした出来事を意識的に探して、心の中で感謝の念を抱くようにすると、ポジティブな精神状態を維持できるようになるとアルゴー氏は話します。
ストレスが渦巻く今の時代だからこそ、感謝を意識的に育てることが、自分自身を守り、心を強くする助けになるかもしれません。
参考文献
Practicing Gratitude Builds Resilience and Hope
https://neurosciencenews.com/gratitude-resilience-psychology-28754/
元論文
It’s the little things: Everyday gratitude as a booster shot for romantic relationships
https://doi.org/10.1111/j.1475-6811.2010.01273.x
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部