島で育つと成長スピードがゆっくりになるようです。
岡山理科大学と東京大学の研究チームは、奄美大島と徳之島に生息する日本の特別天然記念物「アマミノクロウサギ(学名:Pentalagus furnessi)」の成長速度を分析。
その結果、一般的なウサギ類が1年以内に成熟するのに対し、アマミノクロウサギは約5年という長い時間をかけて成熟することが明らかになりました。
これは現生の哺乳類では世界で初めて確認された極端に遅い成長パターンとのことです。
研究の詳細は2025年4月2日付で科学雑誌『Mammal Study』に掲載されています。
目次
- 大人になるまでに5年もかかっていた!
- なぜ成長速度は遅いのか?
大人になるまでに5年もかかっていた!
私たちがよく知るウサギは成長スピードが早く、多産であることが知られています。
おおよそ1年のうちに成熟し、妊娠期間はたったの1カ月ほどで、一度に1〜8匹の子供を出産します。
さらにこれを年に数回繰り返すことがあるほど、繁殖能力の高い生き物です生き物です。
ところが南西諸島の奄美大島と徳之島に生息する「アマミノクロウサギ」はまったく違っていました。

研究チームは今回、アマミノクロウサギの成長速度を明らかにすべく、恐竜研究において確立された「骨組織学的分析(ボーンヒストロジー)」という方法を用いて、本種の骨を調べることに。
これは骨を薄くスライスして内部の組織を顕微鏡で観察し、骨の成長プロセスや速度などを推測する分析手法です。
アマミノクロウサギの標本から大腿骨(ふともも)や脛骨(すね)を薄くスライスして顕微鏡で観察した結果、生後2年ほどは急成長し、その後は緩やかな成長に移行すると判明。
そして成長停止線が完全に形成され、骨の成長が止まるまで、すなわち完全に大人になるまでに約5年かかっていたことがわかったのです。
あらゆる哺乳類において、こうした極端な成長の遅さは、これまで絶滅した化石種でのみ知られていましたが、現在生きている種では世界初の発見だといいます。
では、アマミノクロウサギはなぜこんなにゆっくりと成長するのでしょうか?
なぜ成長速度は遅いのか?
アマミノクロウサギの成長速度の遅さは、島という隔離された環境に秘密があります。
日本列島やその他の大陸に生息するウサギは、周囲に天敵があまりにも多く、常に捕食対象として狙われ続けています。
いつ死ぬかもわからない状況の中で、ウサギたちは「早く成長して、たくさん子供を産む」という生存戦略を進化させました。
しかし島という隔離された特殊な環境には天敵が少なく、餌資源も限られているため、アマミノクロウサギも多産多死ではなく「少ない子供を確実にじっくり育てる」という生存戦略を発達させたと考えられるのです。
実際に、アマミノクロウサギは一度の出産で1匹の子供しか産まないとされています。

それから成長速度とは別に、アマミノクロウサギの骨組織は、他のウサギ類に比べて、非常に緻密で頑丈であることもわかりました。
これは島の急峻な地形で効率的に移動するための骨構造の適応だと考えられます。
今回の研究は、環境によって成長スピードが大きく変わることを明らかにした貴重な成果です。
その一方で、アマミノクロウサギのように子供の数が少なく、成長速度も遅いということは、環境が変われば、繁殖数の減少が急激に進み、他のウサギ類と比べて絶滅リスクが高まる危険性があることを意味します。
これを踏まえて、アマミノクロウサギの効果的な保護活動を確立する必要があるでしょう。
参考文献
島暮らしのアマミノクロウサギは「ゆっくり成長」 ――成熟までの期間が近縁種の5倍、現生哺乳類では世界初の発見――
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/11526.html
元論文
Bone Histology Reveals the Slow Life History and Skeletal Adaptations of the Amami Rabbit Pentalagus furnessi (Lagomorpha: Mammalia)
https://doi.org/10.3106/ms2024-0064
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部