”宇宙倉庫”計画「アーク」、どこにでも1時間以内に物資投下する

災害や紛争の影響下、孤立した島、山岳地帯など、従来の「空輸」や「車両輸送」では絶対にすぐ物資が届かない場所があります。

そんな“絶望的なアクセス困難地”へ、わずか1時間以内で救援物資や重要装備を届けるという、まるでSFのような計画が現実に動き始めています。

アメリカの宇宙ベンチャー「Inversion」が提案するのは、宇宙空間を“巨大な倉庫”として利用し、軌道上から地球上のあらゆる場所に即座に物資を投下できる「Arc(アーク)」という再利用型宇宙カプセルによる新たな物流インフラです。

目次

  • 「宇宙を倉庫に」――Arcが目指す新時代の物流
  • Arcが挑む「現実の壁」

「宇宙を倉庫に」――Arcが目指す新時代の物流

これまで人類は、“必要な物資をできるだけ速く現場に届ける”ためにあらゆる手段を模索してきました。

特に軍事や人道支援、災害対応の分野では、時間との勝負が命運を分けることもしばしばです。

しかし、地上の輸送インフラが寸断されたり、敵勢力がアクセスを妨害したり、そもそも道や空港すら存在しない極地や無人島となると、物資輸送は一気に困難を極めます。

Arc計画は、こうした限界を一気に飛び越える“抜け道”を宇宙に求めています。

Arcは、最大225キログラムの物資を積載できる再利用型の小型宇宙カプセルです。

これらのカプセルを地球低軌道(LEO)にあらかじめ複数配備し、地球を高速で周回させておくのです。

そして必要なとき、地上から指令が飛べば、Arcは軌道上のサービスモジュール(母船)から切り離され、大気圏へ自動的に再突入。

パラシュートを開いて減速し、指定した地域へピンポイントで着地します。

その時間、わずか1時間以内というのだから驚きです。

「宇宙そのものを“地上のどこへでも即応できる巨大な倉庫”にする」

これがArcの本質です。

アクセスに限界が生じる地上とは異なり、宇宙からなら地球全域を“見下ろす”ことができます。

Arcカプセルの数を増やせば増やすほど「どこでも即時に対応」が現実味を帯びてくるでしょう。

また、Arcは単なる物流カプセルではありません。

米国などが強い関心を寄せているのは、極超音速(ハイパーソニック)飛行のテストプラットフォームや、宇宙からの精密投下技術の実証にもなりうるという点です。

Arcの母体となった「Ray」カプセルは2025年1月に初飛行を成功させており、Arcはその発展型として、今後は自律運用・再利用・低コストを実現する「軌道上物流ネットワーク」の主役を目指しています。

とはいえ、こうした理想を求めた構想だけでなく、現実にも目を向けなければいけません。

Arcが挑む「現実の壁」

宇宙を舞台にした即応物流は「夢物語」なのでしょうか。それとも、近未来の当たり前になるのでしょうか。

Arc計画が本格始動するには、まだいくつもの現実的な壁があります。

まず、宇宙からの再突入は凄まじい空力加熱と衝撃にさらされます。

Arcには専用の耐熱素材や精密な自律誘導装置が必要です。

また、軌道上で数ヶ月から数年にわたり物資を保存する場合、放射線や極端な温度変化など宇宙環境に耐えるパッケージングも不可欠です。

さらに、物資カプセルの精密な着地は非常に難易度が高く、都市部や民間地域での運用には厳しい安全対策が求められます。

落下時の衝撃や誤差による被害、さらにはテロ対策なども想定しなければなりません。

加えて、軌道上に大量のArcカプセルを配置すれば、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の増加や運用終了時の安全回収といった新たな課題も浮上します。

また最も現実的な問題はコストです。

いくら再利用型といえど、ロケットで物資やカプセルを打ち上げるには現時点で莫大な費用がかかります。

YouTube動画のコメント欄にも「軍事や災害救援には役立つが、一般宅配など通常用途にはコストが高すぎる」「宇宙ゴミが増えるのでは」「わざわざ宇宙から運ぶ必要があるのか?」など、懐疑的な声や疑問が多く寄せられています。

一方で、「インフラが完全に断たれた場所や敵対勢力が支配する地域への即時投下には絶大な効果がある」「人道支援や極地医療、軍事利用には新時代の切り札になりうる」といった期待も確かにあります。

Arcの構想は、現代の物流や安全保障の限界を根本から揺さぶる「挑戦」でもあります。

Arcが目指す「宇宙からどこへでも物資を届ける仕組み」は、すぐには実現しないかもしれませんが、今後も注目され続けることでしょう。

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参考文献

Space-based transports would act as hypersonic emergency supply drops
https://newatlas.com/military/arc-orbital-supply-craft-emergency/

Arc
https://www.inversionspace.com/arc

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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