米シカゴ大学(University of Chicago)の最新研究で、孤独を感じやすい人ほど、家族や友人との関係において「自分はあまり支援できていない」「むしろ負担をかけている」という否定的な自己評価を持ちやすいことが分かりました。
さらに、この心理傾向は身体の生理的な状態――特に心臓の拍動リズムの変動(高周波心拍変動)とも関係していたというのです。
研究の詳細は2025年7月10日付で学術誌『Psychophysiology』に掲載されています。
目次
- 孤独が生む「自己評価のゆがみ」
- 心臓のリズムも影響していた
孤独が生む「自己評価のゆがみ」

私たちは通常、「孤独」という言葉を「ひとりぼっちの状態」として想像しますが、研究が示す孤独はもっと複雑です。
それは周囲に人がいるかどうかではなく、「人間関係の質や量が自分にとって不足している」と感じる主観的な感覚を指します。
つまり、家族や友人に囲まれていても、その関わりが心地よくないと感じれば、孤独感は募ってしまうのです。
孤独は心の健康だけでなく、体の健康にも悪影響を及ぼします。
抑うつや不安、心血管疾患、さらには寿命の短縮とも関連があることが報告されています。
その背景には、孤独によって高まる「社会的な脅威への感受性」があります。
孤独な人は、人間関係の中で拒絶や対立のサインを敏感に察知する傾向が強くなります。
その結果、相手の何気ない言動を「自分を避けているのでは」と感じたり、対立を避けようとして距離を取ってしまったりします。
今回の研究が注目したのは、この「感受性の高まり」が自分自身の評価にも及ぶ点です。
チームが824名の男女(平均年齢50.4歳)を対象に調査した結果、孤独を感じる人ほど、自分の人間関係への貢献を低く見積もり、「支援はあまりできていない」「迷惑や負担をかけている」と感じやすいことが分かりました。
これは単なる謙遜や自己批判ではなく、行動そのものを制限してしまう危険な心理パターンです。
「どうせ自分は迷惑だから」と思えば、人との接点を避けるようになり、孤独がさらに深まる――まさに悪循環です。
心臓のリズムも影響していた

チームは、この自己評価のゆがみがすべての人に同じように起こるわけではないことにも注目しました。
その鍵となったのが「高周波心拍変動(HF-HRV)」です。
これは心拍のわずかな揺らぎを数値化したもので、副交感神経の働きを反映します。
副交感神経は、心身をリラックスさせ、状況に応じて感情や行動を柔軟に調整する役割を持っています。
過去の研究でも、HF-HRVが高い人はストレス耐性や感情調整力が高く、社会的なつながりを保ちやすいことが知られています。
今回の分析では、孤独感と「家族に負担をかけている」という自己評価との関連は、HF-HRVが低い人ほど強いことが分かりました。
逆にHF-HRVが高い人では、この関連が弱まり、「孤独=迷惑な存在」という思い込みが緩和されていました。
この研究は、孤独が人間関係への自己評価をゆがめ、「自分は迷惑な存在だ」という思い込みを強めること、そして心臓のリズムがその影響を緩和する可能性を示しました。
もちろん、HF-HRVは簡単に意識で変えられるものではありませんが、深呼吸や瞑想、軽い運動など、副交感神経を整える習慣は日常生活で取り入れられます。
また、自分の支援や価値を過小評価していないかを意識的に振り返ることも、孤独の悪循環を断ち切る第一歩です。
孤独は「他人から何をもらっているか」だけでなく、「自分が何を与えているか」という感覚にも影響します。
もしあなたが「自分は負担だ」と感じているなら、それは現実よりも孤独による心理的フィルターのせいかもしれません。
そのフィルターを少し外すだけで、人とのつながりは再び色を取り戻すのです。
参考文献
Lonely individuals tend to view themselves as a burden to others
https://www.psypost.org/lonely-individuals-tend-to-view-themselves-as-a-burden-to-others/
元論文
Loneliness Is Associated With Decreased Support and Increased Strain Given in Social Relationships
https://doi.org/10.1111/psyp.70105
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部