太陽系の外から飛んでくる「星間物体(太陽系の外を旅する天体)」は、どうやら地球のどこにでも同じように落ちるわけではありませんでした。
アメリカのミシガン州立大学(MSU)で行われた研究によって星間物体が地球に命中するコースを調べたところ、地球の特定の地域に衝突しやすい傾向があることが示されました。
また時期によっても衝突する星間物体の速度や数は異なり、春には衝突する星間物体の速度は大きく、冬には衝突頻度が増加することも示されました。
さらに落ちる場所も赤道付近、とくに北半球寄りがわずかに狙われやすいという“偏りだらけ”の地図が浮かび上がったのです。
しかしなぜ季節によって星間物体の速度や衝突頻度が上がるのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年11月5日に『arXiv』にて発表されました。
目次
- 一撃が重い恒星間天体の衝突頻度に地域差はあるのか?
- 恒星間天体は赤道からやや北に落ちやすい
一撃が重い恒星間天体の衝突頻度に地域差はあるのか?

SF映画には、巨大な隕石(いんせき)が地球に衝突して危機をもたらすという定番のシーンがあります。
しかしその隕石が、「太陽系の外から来た石ころ」、つまり他の恒星の惑星系からやってきた天体だとしたらどうでしょうか?
このような「恒星間天体」というものは、太陽系内の天体(小惑星や彗星)とは違って、まったく別の星の惑星系で生まれて、宇宙空間を長い間さまよった末に太陽系に入ってきます。
少し前までなら、そんな「宇宙の放浪者」が地球に落ちるなんてあまり考えませんでしたが、近年この考えをひっくり返す出来事が起きました。
それは2017年に現れた「オウムアムア」という奇妙な天体の発見です。
オウムアムアは葉巻のように細長い形をした物体で、太陽系を通過した後、二度と戻ることなく宇宙の彼方へ飛び去っていきました。
科学者はすぐに、この奇妙な訪問者が太陽系外からやって来た「恒星間天体」だと確認しました。
さらに2019年にはボリソフ彗星、そして2025年には3I/ATLASと呼ばれる物体も確認され、ここ数年だけで恒星間天体が相次いで発見されている状況です。
これらの観測は、遠い恒星系からやってくる「宇宙の迷い人」が稀にではなく、少なくとも数年の間に立て続けに太陽系を通過することがある、という現実を示しています。
地球が46億年前に生まれてからの長い歴史の中で、こうした星間物体が地球に命中したとしてもまったく不思議ではありません。
またその影響も、場合によっては太陽系内の隕石衝突よりも甚大なものになります。
コラム:なぜ星間天体の一撃は重いのか?
「地球に隕石がぶつかる」と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは太陽系の中を回っている小惑星や彗星でしょう。でも、2017年のオウムアムア、2019年のボリソフ彗星、そして2025年の3I/ATLASの登場で、「太陽系の外から飛んでくる石」は、一発の重さ(破壊力)という意味ではかなりヤバい相手だということが見えてきました。まず押さえておきたいのは、スピードが2倍になるとエネルギーは4倍、3倍になると9倍となる点です。つまり「ちょっと速い」は、「ちょっと」では済みません。
では、太陽系内の普通の小惑星と、星間天体はどれくらいスピードが違うのでしょうか。地球に落ちてくる典型的な小惑星の衝突速度は、秒速およそ17~25キロメートル(時速で約6万〜9万キロメートル)程度と言われています。これだけでも十分に「超高速弾」ですが、星間天体はここからさらにギアを上げてきます。星間天体はもともと別の恒星系を回っていたか、あるいは星と星の間を自由に飛び回っている存在で、太陽の重力にしっかり捕まっていません。そのため、太陽系に入ってきたときの“元の速さ”が高いことが多く、地球に対する衝突速度は秒速42〜72キロメートル(時速15万~26万キロメートル)程度になり得ると考えられています。ざっくり言えば、太陽系内の典型的な小惑星より2倍〜3倍くらい速い可能性があり、その運動エネルギーも4~9倍も高くなっています。そして運動エネルギーが高ければ地球の地殻に対するダメージも大きく、環境への影響も甚大になります。
しかし残念ながら、これまで星間由来だと明確に証明された隕石やクレーターは見つかっていません。
見つかっているのは隕石に混ざる微小な「星のかけら」や、宇宙探査機やレーダーが捉えた細かな「星間塵(じん)」と呼ばれる粒子程度です。
こうした証拠が少なすぎるため、「星間物体が地球にぶつかる確率」や「どれくらい危険なのか」を具体的な数値として算出するのは非常に困難でした。
そこで研究チームが取ったのが「まずはどの方向から来やすく、どの季節に衝突が多くなり、地球上のどの地域に落ちやすいのかという『パターン(分布)』を先に知ってしまおう」という試みです。
果たして星間物体の攻撃パターンに本当に『クセ』など存在するのでしょうか?
恒星間天体は赤道からやや北に落ちやすい

星間物体の落下には、本当に“クセ”があるのか?
その答えを確かめるために、研究チームはまず「星間物体とはどんな石ころなのか」を、物理の基本だけで考え直しました。
星間物体は、太陽に縛られている太陽系の小惑星と違い、もともと別の恒星のまわりで生まれた天体だと考えられています。
こうした天体は、恒星同士の重力の“押し合いへし合い”で軌道から弾き飛ばされ、銀河空間を長い時間さまよう存在です。
つまり星間物体は、もともといろいろな方向から、いろいろな速さで太陽系に飛び込んでくる可能性がある“宇宙の落とし物”のようなものです。
そこで研究チームが用意したのは、仮想的な260億個の星間物体を同時に宇宙へ放つという、スケールの大きなシミュレーションでした。
ちりばめられた260億個の物体の動きをみることで、もし地球に当たるとしたら、どんな方向・どんな季節・どんな場所に偏るのかという“パターンの形”を純粋に力学だけで描き出そうとしたのです。
するとまず「どの方角からやって来るか」に偏りがあることが判明します。
全天を地図にして可視化すると、衝突してくる星間物体の多くは、太陽が銀河の中を進んでいく方向(太陽向点方向)から飛び込んでくる傾向がありました。
その濃さは平均の約2倍にも達し、逆方向は平均の半分にまで減っていました。
これはまるで、雨の中を走る車がフロントガラスに多くの雨粒を受け止めるのと同じです。
車が進む方向には雨粒が押し寄せるようにぶつかってきますが、その背中側では雨粒は通り過ぎていきます。
星間物体も同じで、太陽系が銀河の中を進むぶんだけ、前方から「宇宙の飛び石」が飛び込んでくる確率が高まるのです。
また銀河レベルの方向となると、円盤が伸びる方向からも飛び込んできやすいことも示されています。

しかし研究チームが本当に驚いたのは、「季節によるクセ」まで現れたことです。
星間物体の衝突速度を季節ごとに分類したところ、最も速い衝突は春に集中していました。
これは地球が春ごろ、星間物体は太陽系に対してだいたい一定の向きから「宇宙の向かい風」のように吹きつけていると考えられます。
地球は太陽のまわりを1年かけて回りながら、この宇宙の風の中をぐるぐる走っているランナーのような存在です。
春ごろの地球は、この宇宙の向かい風に正面から突っ込む向きで走っています。
このとき地球と星間物体の進行方向は真正面からぶつかるので、相対的なスピードがいちばん速くなります。
そのため、もし星間物体が当たるなら、春の衝突はとても高速な「正面衝突」になりやすいのです。
反対に「数の多さ」では、冬が堂々のトップでした。
冬の地球は太陽の少し後ろ側の位置取りになります。
星間物体は先に太陽のそばを通り、その重力で軌道を少し内側へ曲げられます。
その結果、太陽の背後には地球の軌道に入り込みやすいルートが自然に形成され、冬の地球はちょうどそのルートに重なるため、衝突しやすい星間物体の本数が増えるのです。
次に気になるのは、地球の表面での「地域性」、つまり星間物体は地球のどの場所に落ちやすいのかという点です。
シミュレーションの結果からは、星間物体が落下しやすい地域が明確に浮かび上がってきました。
それは北極や南極といった極地ではなく、赤道付近をぐるりと囲む比較的低緯度の地域でした。
しかも、この星間物体が落ちやすい帯は、地球の赤道にぴったり重なるのではなく、ほんのわずかですが北側にずれていることが判明しました。
ここで重要なのは、これらのパターンが純粋に物理的な仕組みだけで導き出されたという点です。
この結果が実際の私たちの生活に与える影響は、一見遠い宇宙の話に見えて、実は決して小さくありません。
例えば、近い将来、地球防衛の一環として星間物体の観測や衝突回避を目的とした宇宙ミッションが計画される可能性があります。
その時、この研究で得られた「どの方向から、どの季節に、地球上のどこに注意を向ければ良いか」というパターンが、観測網やレーダーの配置計画の貴重なヒントになるでしょう。
また、まもなく稼働が予定されている大型望遠鏡、特にルービン天文台の広域サーベイ望遠鏡では、多数の星間物体の発見が期待されています。
今回の研究成果を使えば、「実際に観測された星間物体が、この理論予測どおりの方向・季節に現れるのか?」という重要な検証が可能になるのです。
未来の宇宙望遠鏡や観測ネットワークとこの「星間物体のクセ地図」を組み合わせれば、私たちは今よりもずっと早く、宇宙から飛来する石ころを見つけられるかもしれません。
元論文
The Distribution of Earth-Impacting Interstellar Objects
https://doi.org/10.48550/arXiv.2511.03374
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

