史上最古の「顧客クレーム」が記された粘土板!その苦情内容が過激すぎた

歴史・考古学

お店やビジネスパートナーに不満を抱いてクレームを入れることは、今に始まったことではありません。

実は人類は何千年も前から、お金を払う顧客として正当に苦情を入れてきたのです。

その史上最古のクレームが、約3700年以上前に記されたメソポタミアの小さな粘土板に残されています。

そこにはかなり過激な口調でクレームが刻まれていました。

一体どのようなことが書かれていたのでしょうか?

粘土板は1953年から大英博物館(The British Museum)に所蔵されています。

目次

  • 史上最古のクレームの内容とは?
  • 過激すぎるクレームの全文

史上最古のクレームの内容とは?

この粘土板は紀元前1750年ごろ、メソポタミア南部の都市ウルで書かれたものです。

粘土板の大きさは縦11.6センチ、横5センチとかなり小さいですが、その裏表にアッカド語でびっしりとクレームが刻まれていました。

このアッカド語はアッシリア学者のアドルフ・レオ・オッペンハイム(Adolf Leo Oppenheim、1904〜1974)によって翻訳され、1967年に出版された彼の著書『メソポタミアの書簡集(Letters from Mesopotamia)』に収録されています。

実際の粘土板の写真がこちらです。

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史上最古のクレームが記された粘土板/ Credit: commons.wikimedia

粘土板に記されたクレームは「ナンニ(Nanni)」というメソポタミア人の男性から、銅商人の「エア・ナーシル(Ea-nasir)」という人物に宛てられたものです。

粘土板には、ナンニの受け取った銅の品質が事前の約束と違っていたことに対する強い怒りが記されていました。

ナンニはまず、エア・ナーシルが「高品質の銅インゴット(※)を渡す」と約束したにもかかわらず、 実際には粗悪な品を送りつけてきたことを厳しく批難しています。

(※ インゴットとは、金属を精錬して鋳型に流し込み、固めた金属の塊のこと)

さらに自分の使者を何度も送り、前払いで預けた金を返してもらおうとしたが、 そのたびに手ぶらで返され、しかも使者は危険な敵地を通らされたと訴えています。

「こんな侮辱を受ける覚えはない。お前だけが、私の使者をこんなふうに扱うのだ!」

ナンニはそう怒りをぶつけます。

驚くべきは、その文面の感情表現の豊かさと、現代にも通じる”消費者の怒り”の構造です。

やや形式的な書き出しこそあるものの、後半に進むにつれ、「何様のつもりだ?」「私はこんな扱いを受ける人間ではない」といった言葉が並び、 思わず現代のクレーム文書やSNSでの炎上投稿と重ねてしまう読者も多いはずです。

では、オッペンハイムによって翻訳されたクレームの全文を見てみましょう。

過激すぎるクレームの全文

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Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

「エア・ナーシルに伝えてくれ、ナンニが次のように言っていると。

お前が来たとき、お前は私にこう言った。『ギミル・シンが来たら、上質な銅のインゴットを渡す』と。

だが、お前はその後去り、私との約束を守らなかった。お前は私の使者(シト・シン)の前に、質の悪いインゴットを置いてこう言った。『受け取りたければ取れ、いらなければ帰れ!』

お前は私を何だと思っているのか?そんなふうに私のような者を侮辱するとは。

私はお前に預けてある金の袋を取りに、私たちと同じような身分の立派な使者たちを何度も送った。

しかし、お前は私の使者を侮辱し、手ぶらで私の元に何度も送り返した。それも敵地を通って戻らせたのだ。

ティルムン(当時、大量の銅を取引していた南メソポタミアの交易地)と取引する商人の中で、私をこのように扱った者が他にいるか?

お前一人が、私の使者を侮辱している!

私がほんの1ミナの銀をお前に借りている(かもしれない)というだけで、なぜお前はそんな横柄な口をきくのか?

私はお前の代わりに宮殿に1080ポンドの銅を納めているし、ウミ・アブムも同様に1080ポンドの銅を納めている。

それとは別に、私たちは共にその取引内容をシャマシュ神殿に保管する封印付きの粘土板に記録させたはずだ。

それなのに、お前はその銅について私をどう扱った?

敵地で私の金の袋を差し押さえた。今や私の金を全額返すのはお前の責任だ。

今後、私はお前から上質でない銅を一切受け取らないと心得よ。

これからは私の敷地でインゴットを1つずつ選別して受け取るつもりだ。そして、お前が私を侮辱したことに対して、私は拒否権を行使する」

と、このようにナンニはかなりお怒りの様子で、エア・ナーシルを強い口調で批難しています。

さらに興味深いのが、過去の発掘調査で、ナンニの他にもエア・ナーシル宛てに苦情を記した粘土板が複数見つかっていることです。

エア・ナーシルがどれほどいい加減な商売をしていたのかは定かでありませんが、いずれにせよ彼のビジネスが顧客の満足を得られなかったのは確かなようです。

いつの時代も、顧客と商売人との小競り合いは変わらずあったようですね。

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参考文献

This Bronze-Age Tablet Is The Oldest Customer Complaint on Record
https://www.sciencealert.com/this-bronze-age-tablet-is-the-oldest-customer-complaint-on-record

Oldest written customer complaint
https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/537889-oldest-written-customer-complaint

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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