北極圏の海で、歴史的な瞬間が撮影されました。
2025年11月2日、ノルウェー北部スケルヴォイ沖で、世界初となる「野生のシャチ出産」がカメラで鮮明に記録されたのです。
出産の瞬間から新生児の最初の1時間、仲間たちが赤ちゃんを守り抜く劇的なドラマ。
その一部始終を目撃した調査チームの驚きと感動が、世界中の海洋学者たちの注目を集めています。
目次
- シャチ赤ちゃん、誕生の瞬間を目撃！
- 史上初の「野生出産」記録
シャチ赤ちゃん、誕生の瞬間を目撃！
2025年11月2日、ノルウェー北部のスケルヴォイ島沖合。
ホエールウォッチング船が集まるなか、ノルウェー・オルカ調査団（Norwegian Orca Survey）のチームが、シャチの群れ（主にメスと若い個体）に遭遇しました。
最初は餌を追う活発な群れとして観察されていましたが、やがて一頭のメスが水面を猛スピードで進む奇妙な動きを見せます。
その後、突然ボートのすぐ近くで水面が真っ赤に染まり、水しぶきが激しく上がりました。
状況を飲み込めないまま観察していたスタッフの目の前で、小さな頭が水面から現れました。
なんと、野生のシャチがまさにその場で出産した瞬間だったのです。
この貴重な出産の場面を間近で見たチームは、ただただ驚きと興奮に包まれました。
出産直後、群れ全体が新生児の周囲に素早く集まり、保護の輪を作ります。
多くはメスと若い個体で、普段以上に活発に動き回り、赤ちゃんシャチを水面まで力強く押し上げているように見えました。
スタッフは当初「赤ちゃんが生きているのか不安だった」と振り返ります。
実際、仲間たちが赤ちゃんを背中に乗せたり、水面上に持ち上げて空気を吸わせたりする姿が観察されました。
ノルウェー・オルカ調査団はすぐさまドローンを飛ばして詳細な観察を開始。
他のホエールウォッチング船にも、シャチたちが落ち着けるよう現場を離れるよう依頼しました。
ドローン映像によって、赤ちゃんシャチが最初の15分ほどは水に浮かぶのに苦労していましたが、その後は自力で泳ぎはじめ、無事であることが確認できました。
史上初の「野生出産」記録
このとき出産した母親シャチは「NKW-591」と識別されており、2013年に初めて記録されて以来、何度も子を産んできたベテランの個体でした。
生まれたばかりの赤ちゃんの背びれは、体内で曲がっていた名残でまだ柔らかく湾曲していましたが、これは新生児ではよくある現象とのことです。
専門家たちは「時間が経てば自然にまっすぐになる」と説明しています。
これまでにもシャチの出産は飼育下（たとえばシーワールドなど）で記録された例はありますが、自然界での出産シーンがここまで詳細に観察され、かつ新生児の最初の1時間まで記録されたのは世界初です。
飼育下では動物本来の行動が抑制されがちなため、今回の野生での観察は研究的にも極めて価値が高いといえます。
群れが赤ちゃんを囲み、力を合わせて浮上させ、空気を吸わせる「チームワーク」の様子は、普段見ることのできないシャチ社会の一面です。
出産後は仲間たちによる「祝福」のような活発な動きも観察され、群れ全体で新しい命の誕生を守り祝うシーンに立ち会えたことは、目撃者にとって一生忘れられない体験となりました。
ノルウェー・オルカ調査団は、その後も距離をとりつつ群れの安全を確認し、集めたデータを今後の科学研究としてまとめる予定です。
「シャチの子どもの生存状況を長期的に見守ることは私たちの研究の重要な目標のひとつです」と調査団はコメントしています。
参考文献
Incredible, first-of-their-kind images show an orca being born in Norway — and the rest of its pod forming a protective circle
https://www.livescience.com/animals/orcas/incredible-first-of-their-kind-images-show-an-orca-being-born-in-norway-and-the-rest-of-its-pod-forming-a-protective-circle
A Killer Whale Birth Has Been Captured On Camera In The Wild For The First Time
https://www.iflscience.com/a-killer-whale-birth-has-been-captured-on-camera-in-the-wild-for-the-first-time-81496
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
