台湾にしか存在しない希少なキノコ「牛樟芝(ぎゅうしょうし)」。
そのキノコに肺がん細胞を攻撃する力があることが、国立台湾大学(NTU)の最新研究で明らかになりました。
牛樟芝は「国宝キノコ」とも称され、古くから健康に良いと信じられてきましたが、現代科学がその秘密の一端を解き明かしつつあります。
研究の詳細は2025年5月28日付で科学雑誌『Carbohydrate Polymers』に掲載されています。
目次
- 台湾の国宝キノコ「牛樟芝」とは?
- 「抗がん作用」を持つと判明!
台湾の国宝キノコ「牛樟芝」とは?
牛樟芝(ぎゅうしょうし)は、台湾にのみ自生する極めて珍しいキノコで、和名では「ベニクスノキタケ(学名:Antrodia Cinnamomea)」と呼ばれています。
このキノコは「牛樟(ぎゅうしょう)」と呼ばれる台湾固有のクスノキの内部にしか育たず、暗く湿った環境で1年にわずか1ミリほどしか成長しません。
そのため自然界で見つかることは非常に稀で、古来より「幻のキノコ」と呼ばれてきました。
他に「台湾の宝」「霊芝の王」「森のルビー」などとも呼ばれています。

台湾先住民の間では、牛樟芝は疲労回復や解毒、肝臓の不調に効く薬として珍重されてきました。
民間伝承だけでなく、近年の科学研究でも抗酸化作用、免疫調整、肝保護作用などが報告されており、台湾国内では健康食品や研究素材として注目を集めています。
その希少性と薬効の高さから、牛樟芝は「台湾の国宝キノコ」と呼ばれる存在となりました。
天然の子実体は極めて高額で取引されることもあり、現在では人工培養の技術が確立され、持続的に研究に利用できるようになっています。
しかし牛樟芝がなぜこれほど多彩な効果を持つのか、その具体的な仕組みは長らく謎のままでした。
「抗がん作用」を持つと判明!
研究チームは今回、牛樟芝を人工環境で培養し、そこから「硫酸化多糖類(SPS)」と呼ばれる特殊な糖分子を抽出しました。
SPSはグルコースやガラクトース、硫酸基が結合してできた糖分子の一種で、体内の細胞にさまざまな作用を及ぼすことで知られています。
さらに抽出された数種類の化合物の中で、特に注目されたのが「N50 F2」です。
研究によると、N50 F2は細胞実験において以下のような顕著な作用を示しました。
まず、炎症に関連する物質の働きを抑える効果です。
慢性的な炎症は多くの生活習慣病や免疫異常に関わっており、IL-6やTNF-αといった炎症マーカーの過剰な分泌を減らすことが確認されました。
これにより、体が不必要に炎症状態に陥るのを防ぐ可能性があります。

さらに驚くべきことに、この分子は肺がん細胞に対しても強い作用を示しました。
N50 F2はがん細胞の増殖を止めるだけでなく、細胞自らを死に導く「アポトーシス」を誘発しました。
これは、がん治療において理想的なメカニズムのひとつです。
チームは、この効果が複数のシグナル伝達経路に同時に働きかけることで実現していると報告しています。
具体的には、がん細胞の生存や転移に関わるタンパク質の働きを抑えつつ、細胞死に関連する分子を活性化させることで、がん細胞を追い詰めるのです。
N50 F2は構造的にもユニークで、ブドウ糖とガラクトースを骨格とし、そこに硫酸基が多数付加された「硫酸化ガラクトグルカン」という形をしています。
この特殊な構造こそが、強力な生理活性の秘密だと考えられています。
もちろん、今回の結果はまだ試験管内での細胞実験にとどまっており、実際に人間の体内で同様の効果が得られるかどうかは、今後の動物実験や臨床試験での検証が必要です。
しかしチームは「この分子が新しい抗がん・抗炎症療法の候補となる可能性がある」と期待を寄せています。
参考文献
A Natural Fungal Polysaccharide That Fights Both Cancer and Inflammation
https://www.asiaresearchnews.com/content/natural-fungal-polysaccharide-fights-both-cancer-and-inflammation
This Rare Fungus Can Kill Cancer Cells, And We Finally Know Its Secret
https://www.sciencealert.com/this-rare-fungus-can-kill-cancer-cells-and-we-finally-know-its-secret
元論文
A highly sulfated α-1,4-linked Galactoglucan of Antrodia cinnamomea with anti-inflammatory and anti-Cancer activities
https://doi.org/10.1016/j.carbpol.2025.123810
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部