2025年10月末から11月初めにかけて、月面が「ピカッ」と光る珍しい現象が、2度も連続して観測されました。
この貴重な瞬間を捉えたのは、平塚市博物館の天文担当学芸員・藤井大地氏です。
藤井氏は日本国内でも有数の「月面衝突閃光」観測者であり、今回はたった2日違いで2つの流星体が月に衝突する様子を高速度カメラで撮影することに成功しました。
宇宙空間でひっそりと起きている、この「月面衝突閃光」とは一体どのような現象なのでしょうか?
目次
- 月面が光る「月面衝突閃光」とは?
- 月面衝突閃光が2度続けて観測される(2025年10月30日,11月1日)
月面が光る「月面衝突閃光」とは?
夜空を見上げたとき、「流れ星」がすっと横切る光景を見たことがある人も多いでしょう。
流れ星は、宇宙空間を漂う小さな石や砂粒が地球の大気に突入し、燃え尽きるときに発生する現象です。
大気が厚い地球では、ほとんどの流星体が地表に届く前に消えてしまいます。
しかし、月には大気がありません。
そのため、宇宙からやってきた小さな石や砂粒は、減速することなくそのままの速度で月面に激突します。
その速度は約4万km/hから26万km/hとも言われており、地球では想像できないほどの衝撃が発生します。
このとき、衝突のエネルギーで月面の一部が一瞬だけ明るく光る現象があります。
これが「月面衝突閃光」と呼ばれるものです。
この光は、衝突によって発生した高温のプラズマの輝きや、熱せられた月面から出る強い光が混ざり合ったものだと考えられています。
光の観測さ継続時間は0.01秒から0.1秒程度と、本当に一瞬だけ現れます。
そして、この月面衝突閃光が特に話題となったのが、2019年1月21日の皆既月食です。
この日、アメリカ大陸やヨーロッパなど広範囲で皆既月食が観測され、世界中の天文ファンが夜空を見上げていました。
皆既月食中は、月が地球の影に完全に隠れることで通常よりも暗くなり、ふだん見逃してしまうような微かな現象も見えやすくなります。
午前4時41分38秒(世界時)、月の南西部で、一瞬だけピカッと光る閃光が観測されました。
複数の国の高感度カメラがこの瞬間を記録し、その正体が流星体の月面衝突による閃光であることが明らかになったのです。
このとき月にぶつかったのは、直径約30cm・重さ約10kgの彗星起源の物質だったようです。
こうした「月面衝突閃光」を観測できる機会はめったにありませんが、2025年、平塚市博物館の天文担当学芸員・藤井大地氏が、その様子をしっかりと捉えました。
月面衝突閃光が2度続けて観測される(2025年10月30日,11月1日)
昨夜は、上弦の月の夜側に月面衝突閃光が出現しました!2025年10月30日20時33分13.4秒の閃光です(270fps,0.03倍速再生)。月は大気がないため流星は見られず、クレーターができる瞬間に光ります。衝突領域から考えると、現在ピークを迎えている、おうし座南流星群や北流星群由来の可能性があります。 pic.twitter.com/MM3xleCZSJ
— 藤井大地 (@dfuji1) October 30, 2025
2025年の観測では、藤井大地氏が10月30日20時33分と11月1日20時49分(現地時間)という、わずか2日違いで2度の月面衝突閃光を捉えました。
どちらも高速度カメラで記録されており、その一瞬のピカッと光る瞬間をスローモーション再生で明確に確認できます。
藤井氏は、観測された閃光はいずれも、「おうし座南流星群」か「おうし座北流星群」から飛来した流星体が原因である可能性を指摘しています。
この時期は「ハロウィーン・ファイアボール」とも呼ばれる明るい流星が多発するピーク期で、2025年11月2日にはポルトガル上空でも流星現象が観測されています。
昨夜も月面衝突閃光が出現しました!2025年11月1日20時49分19.4秒の閃光です(270fps,0.03倍速再生)。月は大気がないため流星は見られず、クレーターができる瞬間に光ります。おうし座南流星群や北群由来の可能性があります。輝面比は78%もありましたが、太い月は観測時間を稼げるメリットもあります。 pic.twitter.com/HRLzSnke4h
— 藤井大地 (@dfuji1) November 1, 2025
では、この月面衝突閃光からどんな点を学べるでしょうか。
まず、月面に降り注ぐ流星体の数やエネルギーを調べることで、将来の月探査や有人活動のリスク評価ができます。
地球では大気によって多くの流星体が燃え尽きますが、月にはそれがありません。
そのため、月には地球の約20倍もの流星体が衝突すると推定されています。
今後、宇宙飛行士が月面で長期滞在する場合や、基地を建設する場合、「どれくらいの頻度で大きな石が落ちてくるのか?」という情報は、生命や施設の安全を守る上で非常に重要です。
また、こうした観測は、太陽系内の小さな天体の分布や活動状況を知る上でも貴重なデータとなります。
月面にできた新しいクレーターの分析や、衝突閃光の観測が積み重なることで、宇宙環境の全体像がより鮮明になっていきます。
参考文献
Watch As Two Meteors Slam Into The Moon Just A Couple Of Days Apart
https://www.iflscience.com/watch-as-two-meteors-slam-into-the-moon-just-a-couple-of-days-apart-81478
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

