職場での昼休憩や自宅での休み時間など、どのように休んでいますか?
何もせずにとにかく寝るとか、スマホをチェックする人が多いかもしれません。
しかし中国・江西師範大学(JNU)の最新研究で、何もせずに静かに目を閉じる休憩よりも、リラックスできる音楽を聴くことの方が、精神疲労の回復が促されることが示されたのです。
研究の詳細は2025年1月31日付で学術誌『Applied Psychophysiology and Biofeedback』に掲載されています。
目次
- 音楽は「ただの気休め」ではなかった
- 脳波が語る「音楽で回復する脳」の正体
音楽は「ただの気休め」ではなかった
研究チームは今回、「音楽が精神的疲労に本当に効くのか?」を客観的に証明するため、健康な大学生30名を対象に次のような実験を行いました。
まず全員に「ストループ課題」という認知負荷の高いテストを30分間実施。
これは例えば、「赤」という単語が青いインクで書かれていた場合、「インクの色(青)」を答えるという、集中力と注意力が試される心理テストです。
この30分の作業だけで、ほぼ全員が「頭が重い」「やる気が出ない」といった強い精神的疲労を感じるようになりました。
主観的な疲労感だけでなく、脳波(EEG)を測定した結果も、脳が明らかに「疲労モード」になっていることを示していました。
ここから参加者は2つのグループに分かれます。
・音楽群:リラックスできる中国の器楽曲(歌詞なし)を20分間聴く
・コントロール群:同じ20分間を静かな部屋で何もせず休む
その後、再び疲労感と脳波を測定し、両者の回復度を比較したのです。
すると驚くべきことに、「リラックス音楽を聴いたグループ」は「ただ休んだグループ」と比べて、主観的な疲労感が大きく減少していました。
さらに脳波解析でも、「音楽群」は脳の覚醒度を示す“アルファピーク周波数”が回復傾向を示し、疲労のサインであるスロー波(デルタ波・シータ波・アルファ波)のパワーが大きく低下。
一方、コントロール群ではこうした変化がほとんど見られなかったのです。
脳波が語る「音楽で回復する脳」の正体
実験では、単なる気分や思い込みだけでなく、脳の電気活動そのものが「音楽」で回復することが客観的に示されました。
注目すべきは「個人アルファピーク周波数(Individual Alpha Peak Frequency)」という指標です。
これは脳の覚醒度や作業効率のバロメーターで、値が低いほど「疲労脳」、高いほど「元気脳」と考えられます。
ストループ課題後、全員のアルファピーク周波数は低下していました。
しかし音楽群だけが、20分のリスニング後に元の水準まで回復。コントロール群は回復が見られませんでした。
また、脳が疲れているときに増える「スロー波」(デルタ波、シータ波、アルファ波)のパワーも、音楽群では特に前頭葉を中心に有意に減少。
これは「集中力・注意力が戻った証拠」と言えます。
こうした客観的な脳波データと、主観的な「疲労が抜けた」という感覚が見事に一致したことは、音楽の“生物学的な回復効果”を裏付けています。
「ただ何もせず休む」よりも、「音楽を聴きながら休む」ほうが、脳を積極的に“元気な状態”へ引き戻すのです。
参考文献
Brainwave analysis reveals the restorative power of music on a mentally fatigued mind
https://www.psypost.org/brainwave-analysis-reveals-the-restorative-power-of-music-on-a-mentally-fatigued-mind/
元論文
The Effect of Music on Resistance to Mental Fatigue: Evidence from the EEG Power Spectrum
https://doi.org/10.1007/s10484-025-09691-4
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部