このほど、中国の宇宙ステーション「天宮」で、人類史上初となる「宇宙バーベキュー」が実現しました。
地球を離れ、無重力空間を旅する宇宙飛行士たちの食卓は、長い間“美味しさ”からはほど遠いものでした。
ですが今回、宇宙で「手羽先をこんがり焼く」という革命が起こったのです。
実際の映像を見てみましょう。
目次
- 「チューブ食」から「焼きたてグルメ」へ、宇宙食進化の歴史
- ついに実現!「宇宙バーベキュー」が変える未来の宇宙食
「チューブ食」から「焼きたてグルメ」へ、宇宙食進化の歴史
人類と宇宙食の歴史は、まさに“我慢”の連続でした。
最初に宇宙で食事をしたのは、1961年に人類初の宇宙飛行を果たした旧ソ連のユーリイ・ガガーリン。
その食事はなんと、牛肉とレバーのペーストが詰まったチューブと、デザート用のチョコレートソースだけ。
決して美味しそうとはいえないメニューです。
続くアメリカの宇宙飛行士たちも状況は同じでした。
一時はサンドウィッチを持っていく案も出ましたが、無重力環境ではパンくずや液体が機器に入り込むリスクがあるために却下。
そこで一口サイズの固形食やアルミチューブ入りの半液体食、フリーズドライの粉末食品などが主流でした。
「メニューのバリエーションがない」「味が単調」「チューブを押し出すのが面倒」など、不満は多くの宇宙飛行士から報告されていたのです。
1970年代には、アメリカの「スカイラブ」宇宙ステーションで初めて冷凍庫が導入され、スペースシャトル時代には温めや加水が可能な調理設備が整備されました。
国際宇宙ステーション(ISS)では、世界中の味が集まり、バリエーションは増えましたが、「焼く」「揚げる」などの本格調理は無理とされてきました。
その理由は火の扱いが極めて難しいからです。
宇宙空間では重力がないため、炎は地上のように上昇せず、火災が起きた場合、煙が空気の流れに沿って漂い、機器を故障させたり宇宙飛行士の呼吸器に悪影響を与えたりする危険があるのです。
そのため、加熱調理といっても、専用加熱器で袋ごと食品を温める「物理的な温め」止まり。
宇宙の“本格料理”は夢のまた夢と思われてきました。
ついに実現!「宇宙バーベキュー」が変える未来の宇宙食
しかし2025年、中国の天宮宇宙ステーションに「熱風オーブン(ホットエアオーブン)」が導入されました。
この新しい調理器具は、宇宙で本格的な加熱調理を可能にし、人類初となる「宇宙で焼く」調理を実現させたのです。
最初のメニューは手羽先。
宇宙飛行士たちは、オーブンを190℃に加熱し、じっくり28分かけて“外はカリッ、中はジューシー”な焼き鳥を完成させました。
実際の映像がこちら。
さらに牛肉料理やナッツのロースト、ケーキ作りまで挑戦できるといいます。
もちろん、宇宙ならではの安全対策も万全です。
食材が無重力で飛び出さないようしっかり固定されており、煙は高温触媒と多層フィルターで浄化。
宇宙飛行士が触れる部分は熱くならず、やけどの心配もありません。
この技術革新により、宇宙飛行士たちは週末や誕生日、祝日など特別な日には「焼きたて」のごちそうを楽しめるようになりました。
「本物の調理」を体験できることで、宇宙での生活の質や心理的満足度も大きく向上すると期待されています。
そして今回の成果は、今後の長期宇宙滞在や月・火星基地での人類生活にも大きな影響を与えるでしょう。
従来の「我慢の宇宙食」から、「好きなものを食べる宇宙生活」へ。
未来の宇宙探査がより“人間らしい”ものへと進化し始めているのです。
参考文献
Chinese Astronauts Just Had Humanity’s First-Ever Barbecue In Space
https://www.iflscience.com/chinese-astronauts-just-had-humanitys-first-ever-barbecue-in-space-81446
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
