スキーやスノーボードなど、ウィンタースポーツが好きな人は多いかもしれません。
ただ、雪山に行くには時間もお金もかかります。
そんな悩みに新たな選択肢をもたらすのが、オーストラリア発の「Snowtunnel(スノートンネル)」による世界初の“回転式屋内スキー施設”構想です。
Snowtunnelは、巨大な回し車(ハムスターホイール)のような回転トンネルを使い、無限に滑れる新感覚スキー体験を提案しています。
目次
- 人間版ハムスターホイール「Snowtunnel」
- 従来の屋内スキース場より低コストな「無限スキー場」
人間版ハムスターホイール「Snowtunnel」
従来の屋内スキー場は、実はとても“作るのが大変”です。
まず本物の雪山のような長大な斜面を再現するには、サッカー場10面分にもなる巨大な土地が必要になります。
たとえば中国・深圳の建設中の屋内スキー場では、全長441m、高低差83mの本格斜面を備えています。
斜面だけでなく、リフトや雪製造機、室内全体を氷点下に保つ冷却設備、さらには強度の高い建物といった大規模インフラも不可欠です。
こうした超大型の施設は都市中心部にはなかなか作れず、郊外や山間部に限られるほか、莫大な建設費と維持コスト、雪質の維持管理の難しさなど、多くの課題があります。
日本でも室内スキー場が閉鎖されていった背景には、こうした“桁違いのコスト”と“継続的な運営の難しさ”があるのです。
こうした状況を打開し、スキーやスノーボードをもっと身近なものにしようと考えたのが「Snowtunnel」です。
Snowtunnelは、本物の雪を使った全く新しい都市型屋内スキー体験を提案しています。
施設の中心には、直径12.5メートル、長さ16メートルの「巨大な回転トンネル(円筒)」が設置されます。
このトンネルの内側には、スノーマシンで作った本物の雪が7~10cmほど敷き詰められています。
トンネルはレゴのように分解・再組み立て可能な設計で、搬送や設置も比較的簡単です。
そして、この円筒が回転することで、足元の斜面だけが内部の人に向かって動いてくる状態になります。
スキーヤーやスノーボーダーは、実際のゲレンデのようにエッジを使いながら左右に滑り、スピードや斜面の感覚も専用オペレーターがコントロール可能。
初心者には歩くよりも遅い速度から始められ、上級者には時速50km超に相当する滑走スピードも実現できる設計です。
また、回転中に雪が上部から落ちてこないよう特殊な下地構造やガード設備、そして雪自体の水分管理や圧縮度調整など、工業技術を応用した独自ノウハウが用いられています。
従来の屋内スキース場より低コストな「無限スキー場」
Snowtunnelの「回転式トンネル」方式は、従来型施設にはない数々の革新性を持っています。
まず最大のポイントは、「都市部でも設置可能なコンパクトさ」と「初期投資・運用コストの圧倒的低さ」です。
巨大な土地や斜面、リフトや膨大な冷却システムを用意する必要がなく、ビル1棟ぶん程度のスペースがあれば本物の雪でスキー体験を提供できます。
雪面の質も、スノーマシンによる新雪を常に維持しやすく、従来の屋内ゲレンデで課題となりがちだった「雪の荒れ」や「アイスバーン化」も発生しにくい構造です。
また、転倒時も岩や木といった障害物がなく、安全面でも配慮されています。
速度調整や雪面コンディション管理の柔軟性も高いため、子どもから大人、初心者から上級者まで幅広いレベルの練習やレッスンに最適です。
ただし、新たな課題も指摘されています。
まず「本物の山での滑走体験」とはやはり異なるため、自然の壮大さやリスク、開放感までは再現できません。
また、回転する斜面特有の“酔い”や“違和感”への対応、安全管理や雪面維持のノウハウは今後さらに磨かれる必要があります。
さらに、維持コストや商業的な成功可能性、集客・収益モデルの実現性についても検証が求められています。
現在Snowtunnelはすでに1/6スケールの実験機で物理検証を進めており、2027年にはオーストラリアで初の商業施設を開業予定です。
この施設には、回転トンネルだけでなく、通常型の小規模スキー斜面や雪遊びエリア、用具レンタルや暖炉付き飲食スペースなども併設される計画です。
都市部でも「冬のスポーツ文化」を身近に楽しめる新しいスタイルの提案として、今後の展開が注目されます。
このように、「巨大ハムスターホイール」のアイデアを応用したSnowtunnelは、ウィンタースポーツの常識を覆す新発想のインドア施設です。
誰もが気軽に無限スキーを体験できる時代が近づいています。
スキー好きな人はもちろん、「これから始めてみたい」という人にも、新しいウィンタースポーツの世界を切り開く存在となるかもしれません。
参考文献
Giant rotating hamster wheels aim to ‘revolutionize’ indoor skiing
https://newatlas.com/ski-snowboard/snowtunnel-indoor-ski-rotating/
Snowtunnel® is coming. Want to join our exclusive Test Crew? Sign up to follow our journey.
https://snowtunnel.com/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

