近年ではマイクロプラスチックがあらゆる場所に潜んでいることが明らかになってきました。
私たちが口にする飲み水や食べ物、吸い込む空気だけでなく、体の中では便や血液、さらには胎盤や脳、生殖器にまで入り込んでいることが報告されています。
そんな中で、ブラジルのカンピーナス州立大学(Unicamp)の研究チームは、62件の研究をレビューし、これまであまり注目されてこなかった骨の内部にまでマイクロプラスチックが到達していることを明らかにしました。
骨という体の最深部でもプラスチック汚染の影響が及んでいるかもしれないのです。
研究の詳細は、2025年6月24日付の『Osteoporosis International』誌に掲載されました。
目次
- マイクロプラスチックはどこまで入り込む?
- マイクロプラスチックが人間の骨から検出される。動物実験では悪影響を確認
マイクロプラスチックはどこまで入り込む?
マイクロプラスチックは直径5ミリ未満のとても小さなプラスチック片です。
この粒子は、もともと小さい粒として作られる場合もあれば、ペットボトルや合成繊維の服などの大きなプラスチック製品が、自然界で摩耗や分解を受けて細かくなったものも含まれています。
これらの微小なプラスチック片は分解されにくく、川や海、空気、そして私たちが毎日口にする飲み水や食品にも混じっています。
最近の研究では、人間が毎日無数のマイクロプラスチック粒子を飲み込んだり吸い込んだりしている可能性があると指摘されています。
では、体内に取り込まれたマイクロプラスチックは、どこまで到達するのでしょうか。
この問題の調査は、これまで主に消化管や肺など、体内の比較的アクセスしやすい部分に焦点が当てられてきました。
便や血液、胎盤、さらには脳など多くの臓器でマイクロプラスチックが検出されていますが、骨のような体の奥深い部分にまで入り込んでいるのかは長く分かっていませんでした。
そこで、カンピナス州立大学の研究チームはマイクロプラスチックと骨の関係について、世界中で報告された62件の研究論文を総合的にレビューしました。
このレビュー論文では、自分たちで新しい実験を行うのではなく、これまでに発表された多くの研究成果を集めて分析し、現時点で何が分かっているのか、どこに課題が残っているのかを整理しています。
マイクロプラスチックがどのような経路で骨や骨髄に到達するのか、骨や骨髄の細胞にどんな影響を与えているのか、動物実験や細胞実験などさまざまな視点から情報をまとめています。
マイクロプラスチックが人間の骨から検出される。動物実験では悪影響を確認
このレビューから分かったことは、マイクロプラスチックが骨や骨髄の内部にまで到達し、細胞レベルで多様な影響を及ぼしている可能性があるということです。
まず、培養細胞を用いた実験では、骨を作る細胞や骨髄の幹細胞がマイクロプラスチックにさらされることで、細胞の生存率が低下し、老化が促進されることが報告されています。
また、細胞が専門的な役割を持つための分化というプロセスがうまく進まなくなったり、遺伝子の働きが変化し、活性酸素が増加して炎症反応が引き起こされたりする現象も観察されています。
さらに骨を壊す細胞である破骨細胞の形成や働きにも変化が生じ、骨の再生バランスが乱れる可能性が懸念されています。
動物実験でも、マウスなどにマイクロプラスチックを与えると、骨や骨髄の中で粒子が検出されるだけでなく、骨の成長が阻害されたり、骨の内部構造に乱れが生じたり、骨の強度が低下する例が報告されています。
さらに、腸内細菌のバランスが崩れたり、白血球をはじめとした血液を作る骨髄の機能にも悪影響が及ぶケースも明らかになっています。
マイクロプラスチックがここまで深部に届く理由としては、やはり、その粒子が非常に小さいことが挙げられます。
特にナノプラスチックと呼ばれる100万分の1ミリほどの極小粒子は、体の防御バリアをもすり抜けてしまう可能性があるのです。
食べ物や飲み物、空気から体内に入ったこれらの粒子が、血液の流れに乗って全身を巡り、骨や骨髄といった体の奥深くにまで運ばれる可能性があるのです。
では、こうした現象は、人間にも当てはまるのでしょうか。
ヒトを対象とした研究では、マイクロプラスチックが骨組織で検出されました。
現時点では、細胞実験や動物実験と同様の影響が人間にも及ぶか分かっていません。
とはいえ、骨の細胞や骨髄の働きが妨げられることで、骨の成長障害や骨粗しょう症、骨折のリスク上昇につながる可能性が指摘されています。
関係性は不明ですが、実際に骨粗しょう症の患者数は世界的に増加しており、加齢や生活習慣、飲酒など従来のリスクに加えて、マイクロプラスチックの蓄積という新たな環境リスクが注目されつつあります。
これからはヒトの骨組織での定量的な調査や、長期的な疫学研究を進めていくことが重要でしょう。
マイクロプラスチックの体内への取り込みを減らすためには、飲み水のろ過やプラスチック製品の使用を減らすこと、リサイクルを徹底することなど、個人と社会が連携した対策が求められます。
今回の研究は、現代の環境汚染が私たちの骨という根幹にまで及んでいる可能性を示しました。
骨の健康を守るためには、マイクロプラスチックの影響を知り、暴露を減らす取り組みがより重要になると考えられます。
参考文献
Microplastics Found Deep Inside Human Bones, Scientists Warn
https://www.sciencealert.com/microplastics-found-deep-inside-human-bones-scientists-warn
Scientists discover microplastics deep inside human bones
https://www.sciencedaily.com/releases/2025/09/250918225014.htm
元論文
Effects of microplastics on the bones: a comprehensive review
https://doi.org/10.1007/s00198-025-07580-4
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部