「その歩き方、只者ではないな――」
漫画では、登場人物が相手の雰囲気や強さを「歩き方」から見抜くシーンがあります。
では、こうした“歩き方から強さを察知する能力”は、現実の私たち人間にも本当に備わっているのでしょうか?
イギリスのノーサンブリア大学(Northumbria University)の研究チームは、「人は歩き方のどんな特徴から“強そう”と直感するのか?」という謎に、3Dモーションキャプチャ技術を使って迫りました。
“動き”だけで「強そう」と評価される人とフィジカルの強さの関連も明らかにしています。
この研究成果は、2025年9月29日付の『Scientific Reports』誌に掲載されました。
目次
- 「その歩き方、只者ではないな」というフレーズは現実的?
- 「強そう」に見える歩き方が判明!実際の強さと関係していた
「その歩き方、只者ではないな」というフレーズは現実的?
漫画や映画では、「雰囲気や仕草、何気ない動きから只者じゃないことが伝わる」場面がよく登場します。
現実でも私たちは相手の「顔つき」「体格」「声」などから“強そう”と感じ取っています。
実際、心理学の研究では顔写真だけでも筋力やフィジカルの強さをある程度見抜けることが示されてきました。
腕や胸、肩の周囲、身長などの“体格的な特徴”は、強さや危険性の判断材料として知られています。
また、声の響きから力強さを感じ取る現象も多く報告されています。
けれど、私たちが日常で遭遇する“只者じゃない相手”は、静止画や音声ではなく、「実際に動いて」います。
そこで今回の研究では、「歩き方そのものが強さのサインとなり得るのか」、そして「どんな動きが“強そう”に見えるのか」を科学的に解明することが目的とされました。
研究チームは、18~41歳の男性52人の歩行動作を3Dモーションキャプチャで記録。
顔や体格、服装などの見た目がわからないように処理された“シルエットアバター”動画に変換し、これを137人の評価者に3~4秒ずつ見てもらって「どれだけ強そうに見えるか」を7段階で評価してもらいました。
さらに、歩行者それぞれの体格(BMI、胸囲、肩囲、腕周り、ウエスト)、筋力(握力)、そして攻撃性(BPAQスコア)もあわせて測定。
「見た目を隠した歩き方」だけで、どれほど本人の体格や筋力との結びつきが見抜かれるのか、徹底的に調べられたのです。
「強そう」に見える歩き方が判明!実際の強さと関係していた
では、どんな歩き方が「強そう」に見えるのでしょうか?
研究チームが解析した結果、特に「肩を横に大きく開いて歩く動き」と「胴体を左右に大きく揺らす動き」が“強さのサイン”として浮かび上がりました。
これらは、“自信に満ちた”“堂々とした”印象を与える典型的な動作で、西部劇のヒーローや”漫画の強者”が登場する場面を思わせます。
驚くべきことに、こうした「歩き方のクセ」は、実際の体格(BMI、胸囲、肩囲、腕周り、ウエスト)、筋力(握力)、さらに攻撃性スコアとも有意に関連していました。
つまり、「強そうに見える動き」は単なるハッタリではなく、その人自身のフィジカルな強さや性格の特徴がにじみ出ているのです。
統計解析の結果では、「肩の開き」「胴体のスウェイ」「体格や筋力」はそれぞれ独立して“強そう”という評価に寄与していることが示されました。
たとえば、体格が大きい人でも、歩き方に特徴がなくおとなしい印象なら「そこそこ強そう」と評価され、逆に中肉中背でもスウェイや肩幅を大きく見せる動きがあれば「かなり強そう」に映るケースもあります。
また、「強そう」と感じるかどうかには評価者側の個人差も見られ、女性や年配の人ほど“強そう”と評価しやすい傾向が明らかになっています。
こうした「歩き方のクセ」は、いわば“無意識のサイン”であり、人間における「危険察知」の重要な手がかりとなってきた可能性があります。
この発見は、私たちの日常にも応用できます。
たとえば、街ですれ違う人の歩き方に威圧感を覚えたり、逆に安心したりするかもしれません。
こうした直感は、いくらか信頼できるものです。
また、自分の歩き方を変えることで「自分を強く見せる」ことも可能かもしれません。(それが勧められるかは別として)
ちなみに、この知見を応用することで、防犯、舞台演出などの分野でも、「歩き方から人を直感的に評価する」新たな視点が得られる可能性があります。
漫画でよく登場する「その歩き方――只者ではないな」というフレーズ。
これは現実にもいくらか当てはまります。
私たちも、無意識のうちに歩き方から相手の“強さ”を見抜いているのです。
参考文献
Could your walk be a signal about your ability to win a fight?
https://theconversation.com/could-your-walk-be-a-signal-about-your-ability-to-win-a-fight-262649
元論文
Perceiving intimidation through kinematic cues in men’s gait
https://doi.org/10.1038/s41598-025-16400-y
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

