勃起不全は、男性の生活の質に大きな影響を及ぼす問題です。
特に40歳以上の40%は、この問題に悩んでいると言われています。
しかし、これまでの理解や治療法には限界があり、新たな解決策が求められていました。
そんな中、華南理工大学(SCUT)を中心とした研究チームが、3Dプリンティング技術を用いてブタのペニスモデルを開発し、ブタの勃起機能を回復させることに成功しました。
この研究成果は、2025年3月4日付の『Nature Biomedical Engineering』誌に掲載されています。
目次
- 勃起不全の治療に3Dプリンティング技術を用いる
- 3Dプリントされたペニスモデルによりブタとウサギの勃起不全を回復
勃起不全の治療に3Dプリンティング技術を用いる
勃起は、陰茎内部の海綿体と呼ばれるスポンジ状の組織が血液で満たされることで起こります。
しかし、外傷や疾患によりこの組織が損傷すると、勃起不全を引き起こす可能性があります。

従来の治療法では、完全な機能回復が難しい場合も多く、新たな治療法の開発が急務とされていました。
3Dプリンティング技術は、生体組織の再生において革新的な手法として注目されています。
この技術を用いることで、患者自身の細胞を利用したオーダーメイドの組織や臓器の作製が可能となり、拒絶反応のリスクを低減することが期待されています。
今回の研究では、3Dプリンティング技術を用いて、ブタやウサギの陰茎海綿体組織のモデルを開発しています。
ハイドロゲルベースのペニスモデルによって、ブタやウサギの生殖機能の回復を目指したのです。
(閲覧注意:次項には実験におけるブタのペニス写真があります)
3Dプリントされたペニスモデルによりブタとウサギの勃起不全を回復
研究チームは、まずハイドロゲルベースの足場構造を作製し、そこにブタやウサギの内皮細胞を植え付けました。
この内皮細胞は、血管内壁を構成する主要な細胞であり、血管の再生や機能回復に重要な役割を果たします。
このペニスインプラントを勃起不全を持つブタやウサギに移植した結果、移植された組織は低い炎症反応を示し、時間とともに新たな組織が形成されました。

そして移植されたブタやウサギでは、勃起機能が改善しました。
また、手術後数週間で交尾が可能となり、妊娠率は25%から100%に上昇しました。
ちなみに実験では、内皮細胞なしの人工ペニスインプラントを移植された個体も存在しましたが、内皮細胞ありの方が勃起機能が優れていました。
妊娠率の上昇も内皮細胞なしだと75%どまりました。
これらの成果は、将来的に人間の勃起不全や勃起障害の新たな治療法に役立つ可能性があります。
さらに、この技術は心臓などの血管が豊富な臓器の再生医療にも応用できるかもしれません。
参考文献
World First: Scientists Printed Penises For Pigs And Restored Their Erections
https://www.sciencealert.com/world-first-scientists-printed-penises-for-pigs-and-restored-their-erections
3D-printed tissue restores erectile function and aids reproduction in animal study
https://medicalxpress.com/news/2025-03-3d-tissue-erectile-function-aids.html
元論文
3D-printed perfused models of the penis for the study of penile physiology and for restoring erectile function in rabbits and pigs
https://doi.org/10.1038/s41551-025-01367-y
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部