世界で最も希少な鉱物とは?

サイエンス

「世界で最も希少な鉱物」とは何でしょうか。

高価な金やダイヤモンドでしょうか。

それとも、宝石の王様と呼ばれるアレキサンドライトでしょうか。

実はどれも違います。

この記事では、これまでにたった1度しか発見されたことがない「世界で最も希少な鉱物」である「チョートゥー石」を紹介します。

目次

  • 世界で最も希少な鉱物は「チョートゥー石」
  • マグマが冷えて固まる中で誕生した奇跡の鉱物

世界で最も希少な鉱物は「チョートゥー石」

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最も希少な鉱物は何か? / Credit:Canva

金やダイヤモンドは、貴重で美しい鉱物として有名です。

しかし、比較的多く存在しており、ある程度の資金があれば、入手自体はそこまで難しくありません。

では、より希少な鉱物には何が含まれるでしょうか。

「世界三大希少石」と呼ばれる「アレキサンドライト」「パライバトルマリン」「パパラチアサファイア」は、確かに希少であり、その美しさも相まって高く評価されています。

しかし、これらであっても、「世界で最も希少な鉱物」とは言えません。

なぜなら、世界で最も希少な鉱物は、これまでに1度しか見つかったことがないからです。

その鉱物の名は、「チョートゥー石(英名:Kyawthuite)」です。

やや透き通った赤橙色のこの鉱物は、国際鉱物学連合によって公式に認められた1.61カラットの標本がただ1つだけ存在しており、「世界で最も希少な鉱物」だと言えます。

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世界で最も希少な鉱物「チョートゥー石」 / Credit:Anthony R. Kampf(Natural History Museum of Los Angeles County)et al., Mineralogical Magazine(2017)(PDF)

チョートゥー石が発見されたのは2010年のことでした。

ミャンマーのモゴックは、様々な宝石鉱物が採れることで有名な地域ですが、そのモゴック近くのチャウンジー渓谷で、サファイア採鉱者によって発見されたのです。

他の鉱物と混じって採取されたチョートゥー石は、当初そこまで目立っておらず、サファイア採鉱者は一般的な宝石と同様に扱い、地元の市場で販売しました。

しかし、鉱物学者であるチョー・トゥー氏は、市場でチョートゥー石と出会った時、その独自性を見抜きました。

そして、この鉱物を購入。

専門家たちと協力して、その組成や特性を調査したところ、既存のどの鉱物とも一致しないことが分かったのです。

この協力により、2015年に国際鉱物学連合によって「チョートゥー石」として公式に認識され、世界で最も希少な鉱物としての地位が確立されました。

そしてチョートゥー石の科学的な説明は、2017年にロサンゼルス自然史博物館の科学者たちによって提出されました。

現在は、カットされた標本1.61カラット(0.3グラム)が、ロサンゼルス自然史博物館に保管されています。

では、世界に1つしかないチョートゥー石とは、どんな鉱物なのでしょうか。

マグマが冷えて固まる中で誕生した奇跡の鉱物

専門家たちがチョートゥー石にX線を当てて調べたところ、チョートゥー石は「アンチモン酸ビスマス」という物質だと分かりました。

その化学式は、「Bi3+Sb5+O4です。

ロサンゼルス自然史博物館にあるチョートゥー石は自然の産物ですが、同様の化学組成を持つものは人工的に作ることができます。

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ビスマス(左)とアンチモン(右) / Credit:Canva

天然のチョートゥー石にはビスマス(Bi)アンチモン(Sb)が含まれており、個別にはそれほど珍しくありませんが、非常に特殊な条件下で結合します。

この鉱物は、マグマが冷えて固まった岩石「火成岩」の一種「ペグマタイト」で形成されると考えられています。

具体的に言うと、まず地下深くでマグマがゆっくりと冷えて固まり、岩石になります。

そのプロセスの末期では、ガスや水分が集まって岩石の中に空洞が作られ、その中で特殊な鉱物が成長する場合があります。

空洞に満たされた水分には、鉱物の材料(周囲の岩石の残り)が溶け込んでおり、空洞内で結晶として成長します。

このようにしてできた鉱物はペグマタイト鉱物と呼ばれ、石英や長石、トパーズ、蛍石などが作られます。

そして、チョートゥー石も同様のプロセスで形成されたと考えられています。

インドとアジアのプレートが衝突するミャンマーの複雑な地質学的プロセスが、チョートゥー石の形成に必要な熱、圧力、マグマをもたらしたのです。

また、チョートゥー石の構造は、正長石や石膏などと同じ「単斜晶系」です。

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「チョートゥー石」の構造。左図と右図は、それぞれ別々の方向から見たもの / Credit:Anthony R. Kampf(Natural History Museum of Los Angeles County)et al., Mineralogical Magazine(2017)(PDF)

画像のように、「アンチモンと酸素の八面体が形成する市松模様のシート」と「ビスマス」が平行に位置しています。

さらにチョートゥー石を構成するビスマスは非常に重い元素であり、チョートゥー石の密度は、水の8倍以上、またはルビーの2倍です。

そのため、実際に手に持ってみると、見た目よりもはるかに重く感じます。

このようにチョートゥー石は、ミャンマーの地形が生み出した特殊な希少鉱物なのです。

ちなみに、チョートゥー石が発見されたミャンマーでは、2番目に希少な鉱物である「ペイン石(Painite)」も発見されています。

もしかしたら今後も、これまでに発見されたことのない希少鉱物がミャンマーから見つかるかもしれません。

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参考文献

Meet the world’s rarest mineral. It was found only once
https://www.zmescience.com/science/geology/world-rarest-mineral/

There Is Only One Specimen Of The Rarest Mineral On Earth
https://www.iflscience.com/there-is-only-one-specimen-of-the-rarest-mineral-on-earth-67276

元論文

Kyawthuite, Bi3+Sb5+O4, a new gem mineral from Mogok, Burma (Myanmar)
https://pubs.geoscienceworld.org/minersoc/minmag/article-abstract/81/3/477/285376/Kyawthuite-Bi3-Sb5-O4-a-new-gem-mineral-from-Mogok

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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