ロックな鳥「ヤシオウム」は最高の演奏のため楽器作りから始める!

オーストラリア

こだわりの強いミュージシャン魂を持った鳥がいたようです。

オーストラリアに生息する「ヤシオウム」のオスはメスを落とすため、木の棒を片手に華麗なドラム演奏を披露することで知られています。

その演奏スタイルもスローからハイテンポと様々で、研究者たちは大いに注目してきました。

そして、豪オーストラリア国立大学(ANU)の2023年の研究によると、ヤシオウムは自分の好みに合わせて、ドラムスティックを一から加工したり、デザインしているという。

研究の詳細は、2023年9月13日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。

目次

  • イカしたドラム演奏でメスを落とすロックな鳥
  • 自分に合った最高のドラムスティックを作っていた!

イカしたドラム演奏でメスを落とすロックな鳥

ヤシオウム(学名:Probosciger aterrimus)は、オーストラリア北東端のヨーク岬半島とパプアニューギニアの一部地域にのみ生息する希少な鳥で、すでに絶滅危惧種に指定されています。

成体の全長は55〜60センチほどで、真っ黒な羽毛の中に鮮やかな頬の紅色が印象的です。

頭上に高く伸びたトサカはまさにロッカーの証でしょうか。

ドラム演奏をするロックな鳥「ヤシオウム」
ドラム演奏をするロックな鳥「ヤシオウム」 / Credit: canva

ドラム演奏をするのはオスのヤシオウムで、彼らは自分の縄張りをステージに、クチバシや足先で握りしめたスティックで、リズミカルに木の幹を叩きます。(足だけで叩くこともある)

それぞれのオスは独自の演奏スタイルを持っており、非常にスローテンポで叩く鳥もいれば、ハイテンポでスピーディーに叩くのが好きな鳥もいるという。

こちらが実際のドラム演奏の様子です。

彼らの演奏はそれぞれオリジナルのリズムを持っており、縄張りの主張としても利用されているようです。

研究主任のロバート・ヘインソーン(Robert Heinsohn)氏は「彼らのドラム演奏はそれぞれに個性があり、ヤシオウムは遠く離れた場所でも誰が演奏しているのかドラムのリズムから識別できることが先行研究で分かっている」と話します。

しかしドラム演奏のもっとも重要な目的は、繁殖パートナーとなるメスへのアピールのようです。

そしてリズム以外にも彼らの行動で注目されているのが、演奏時に用いるドラムスティックの多彩さです。

ヘインソーン氏らは、バリエーション豊かな演奏を行うヤシオウムたちが、それを奏でるドラムスティックをどのように選択するか知りたいと考えました。

そこで研究チームは、ヤシオウムの生息地に赴き、彼らの愛用するドラムスティックの違いを調べることにしたのです。

自分に合った最高のドラムスティックを作っていた!

チームは丸2年間、ヨーク岬半島にあるクティニ・パヤム国立公園(CYPAL)を歩き回り、ヤシオウムの鳴き声やドラム演奏に注意深く耳を傾けて、辛抱強く追跡調査をつづけました。

その間に、ヤシオウムの捨てたドラムスティックを合計256個(木の棒227本、種子のさや29個)集めることに成功しています。

(実はヤシオウムは演奏が終わると、ロックミュージシャンがライブの最後に楽器を叩きつけるように、ドラムスティックを地面に投げつけるのだそう)

そして13羽が捨てた楽器を比較したところ、ドラムスティックの好みの形や長さはヤシオウムごとに大きく異なることが判明したのです。

観察の結果、あるオスは長い木の棒を好み、また別のオスは短くて太い木の棒を好み、それから木の棒ではなく丸い種子のさやを一貫して愛用するオスもいました。

ヤシオウムが使っていたドラム楽器の違い
ヤシオウムが使っていたドラム楽器の違い / Credit: R. Heinsohn et al., Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences(2023)

ヘインソーン氏らを驚かせたのは、それぞれの鳥が個別に「どんな形のドラムスティックが最高なのか」確固としたヴィジョンを持っていることでした。

彼らは身近にある入手可能な素材を優先させるのではなく、1羽ごとに強いこだわりを示しており、好みの形がなければ、クチバシや足先を駆使して木の幹を切り取り、一からドラムスティックを作っていたのです。

ヘインソーン氏は「彼らが道具を自分たちの望む形に削り落としていく様子は、まるで木工彫刻の職人が仕事をしているのを見ているようでした」と話します。

画像
Credit: en.wikipedia

加えて、メスたちはオスが使う楽器の種類やその製作プロセスにも興味を示していました。

メスはスティック作りからドラム演奏まで一挙手一投足を見守り、自分のパートナーを慎重に選定していたという。

恋の駆け引きはスティック作りから始まっていたようです。

それからオスたちは、お互いの楽器デザインを真似することはないものの、自分が習得したスティック作りの技術を息子たちに教えていたといいます。

父オウムは「それじゃいかん、メスを落とせるのはこの形だ!」と息子に秘伝のワザを伝授しているのかもしれません。

ヤシオウムの現状はかなり危機的

ロックでメスを落とせても実際はかなりピンチです
ロックでメスを落とせても実際はかなりピンチです / Credit: canva

一方で、ヤシオウムの個体数は生息地の破壊や繁殖率の低さから年々減少の一途を辿っており、野生下で生き残っているのはすでに2000羽に満たないと考えられています。

これを受けてヨーク岬半島では2021年後半に、ヤシオウムの危機レベルを「脆弱」から「絶滅危惧」へと格上げしました。

彼らのロック魂を存続させるためにも、積極的な保護活動が必要となるでしょう。

ちなみに飼育下だと、こんなノリノリなヤシオウムも撮影されているようです。

全ての画像を見る

参考文献

Australian National University researchers find ‘master sculptor’ in drumming palm cockatoo
https://www.abc.net.au/news/2023-09-13/drumming-palm-cockatoos-master-sculptor-anu-researchers/102845648

Wild male palm cockatoos rock out with custom drumsticks
https://www.sciencenews.org/article/wild-male-palm-cockatoos-drumsticks

Palm cockatoos beat to their own drum
https://reporter.anu.edu.au/all-stories/palm-cockatoos-beat-to-their-own-drum

元論文

Individual preferences for sound tool design in a parrot.
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.1271

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました