メタボの真の原因が判明!中年期から脂肪前駆細胞が活性化していた!

メタボリックシンドローム

人間は40歳を過ぎたあたりから、お腹まわりに特に脂肪がつきやすくなってきます。

食事に気をつけ、運動もそこそこ続けているのに、この部分の脂肪がじわじわと増えてきて悩んでいる人も多いでしょう。

これまで私たちは、この現象について、「成長が止まった大人はエネルギー消費量が減るため、若い頃と同じ食生活を続けるとエネルギーが余り、脂肪として蓄積されてしまう」と言われていました。

実際、医学界でも、成長期の終了後に基礎代謝量(Basal Metabolic Rate)が低下し、筋肉量も減少することで、エネルギー収支の不均衡が肥満やメタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome)を引き起こすと考えられていました。

ところが、最新の研究が、この見方に一石を投じました。

アメリカの医療研究機関City of Hope(シティ・オブ・ホープ)が発表した成果によれば、単なるエネルギー収支の問題にとどまらず、年齢とともに体内で新たに現れる細胞が、脂肪の蓄積を後押ししていることがわかったのです。

体の中では、中年期になると「脂肪前駆細胞(adipose progenitor cells)」という脂肪のもとになる細胞が出現し、脂肪細胞への変化が加速される、つまり中年期以降太りやすくなるのは単なる食生活だけの問題ではない可能性が出てきたのです。

この研究成果は、2025年4月25日に科学誌『Science(サイエンス)』に掲載されました。

目次

  • 中年太りは細胞レベルで始まっていた
  • メタボリックシンドロームを予防できる可能性も

中年太りは細胞レベルで始まっていた

今回の研究で注目されたのは、脂肪細胞になる前の段階に存在する「脂肪前駆細胞(adipose progenitor cells)」です。前駆細胞とは、特定の細胞へと成長する前段階の細胞のことで、体内で必要に応じて分化(特定の役割を持つ細胞に変化)する能力を持っています。

若い頃は、こうした脂肪前駆細胞は比較的静かに存在しているだけです。ところが加齢とともに、特に中年期に差しかかると、これらの細胞が突然活性化しはじめることが今回の研究で明らかになりました。

つまり、単に食べ過ぎたから、運動しなかったからというだけではなく、体そのものが「脂肪を溜めやすいモード」へと切り替わる仕組みが存在するのです。

この発見は、中年太りのメカニズムがこれまで知られていた「代謝が落ちるから脂肪が燃えにくくなる」、という単純な原理ではない可能性を示しています。

実際には、体内で新たな脂肪細胞を作る「材料」が加齢によって増え、それが脂肪組織を拡大させていたのです。

研究では、マウスを使った実験と、ヒトから採取した脂肪組織サンプルを用いた解析の両方が行われました。

Credit:Wenxiang Hu et al., Science (2025)

マウスでは、中年期に入ると脂肪組織に現れる新しい前駆細胞が、積極的に脂肪細胞へと変化していく様子が観察されました。さらに、人間の脂肪組織においても、年齢とともに類似の前駆細胞集団が増える傾向が確認されています。

つまり、「年を取ったら太りやすくなる」というのは、自己管理の失敗ではなく、生物学的な必然だったのです。

メタボリックシンドロームを予防できる可能性も

今回の研究は、「年齢とともに太りやすくなるのは避けられない宿命だ」とあきらめる必要がないことも示唆しています。

なぜなら、加齢によって活性化する脂肪前駆細胞(adipose progenitor cells)をターゲットにすることで、将来的に肥満やそれに伴う健康リスクを抑える新たな治療法が開発できるかもしれないからです。

肥満は見た目だけの問題ではありません。

特に内臓脂肪が増加すると、糖尿病(type 2 diabetes)や高血圧(hypertension)、心血管疾患(cardiovascular diseases)など、いわゆるメタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome)と呼ばれる複数の健康リスクを高めることが知られています。

もし、脂肪前駆細胞の異常な活性化を抑制できれば、こうした疾患を根本から予防する道が開かれる可能性があります。

実際、City of Hopeの研究チームも、この細胞の挙動を制御する薬剤や治療戦略の開発に向けて、今後さらに研究を進めていく予定だと述べています。

いずれ、年齢による自然な脂肪増加を穏やかに抑え、健康寿命を延ばす新たな選択肢が生まれるかもしれません。

とはいえ、現時点ではこの研究は基礎段階にあり、すぐに実用化されるわけではありません。

また、たとえ体内の細胞変化が避けがたいものであっても、日常生活の中での食事管理や適度な運動習慣が脂肪蓄積を遅らせ、全体の健康リスクを下げることに変わりはない、と研究者たちは強調しています。

メタボはいつまでも若い頃と変わらない食事や、運動をサボっているからという怠惰だけが理由でなかったようです。

ちょっと気を使っているという程度では避けられない、想像以上に根の深い健康の問題だったのです。

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参考文献

New Research Explains why our Waistlines Expand in Middle Age
https://www.cityofhope.org/new-research-explains-why-our-waistlines-expand-in-middle-age

元論文

Distinct adipose progenitor cells emerging with age drive active adipogenesis
https://doi.org/10.1126/science.adj0430

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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