今日の中米グアテマラにかつて栄えていた古代マヤ文明の都市・ティカル(Tikal)。
その遺跡で新たに、赤・黒・黄色で彩色された石造りの「祭壇」が発見されました。
西暦300年代後半のものとされ、中央メキシコに伝わる”嵐の神(Storm God)”によく似た図像が描かれていたと、米ブラウン大学(Brown University)の考古学研究チームは報告しています。
研究の詳細は2025年4月8日付で学術誌『Antiquity』に掲載されました。
目次
- 西暦300年頃の精巧な「祭壇」を復元!
- 古代メキシコの人々によって作られたもの?
西暦300年頃の精巧な「祭壇」を復元!
「神様の顔が描かれた石の箱のようなものが土中から発掘された」と聞いたら、まるで冒険小説の始まりのように感じるかもしれません。
しかし、それはまさに今回の発見を言い表しています。
発掘された場所は、グアテマラ北部のジャングルに位置する古代の都市遺跡・ティカル。
マヤ文明最大級の遺跡の一つであり、神殿や宮殿が林立するその中心地からわずか125メートルの地点に、これまで未発見だった遺構が眠っていたのです。

チームが新たに発見したこの遺構は、縦1.8メートル、横1.33メートル、高さ約1.1メートルの長方形の祭壇でした。
この祭壇は西暦300年代後半に造られたもので、赤、黒、黄の3色で描かれた4つのパネルで飾られています。
また頭に羽飾りを着けた人形の頭像が描かれており、その両側には盾または儀式用の装飾品が配されていました。
その実際の画像とありし日の姿が復元したものがこちらです。

古代都市ティカルは紀元前850年頃に成立し、長らくは影響力の乏しい小都市でしたが、西暦100年頃には王朝として急成長しています。
しかし調査の結果、ティカルで発掘されたこの祭壇は、ティカルの人々によって作られたものではないことが明らかになりました。
祭壇を作った真の人物は、同時代に中央メキシコで栄えていた大都市・テオティワカンから来た人々だったのです。
古代メキシコの人々によって作られたもの?
チームによる詳しい調査の結果、ティカルで見つかった祭壇には、テオティワカンでしかあり得ない数々の証拠が見つかっています。
例えば、祭壇に描かれた図像はティカルのものではなく、明らかにテオティワカンに伝統的な図像のタッチだったのです。
また、パネルに描かれた羽根飾りの図像は、中央メキシコに伝わる”嵐の神(Storm God)”にそっくりだったといいます。
さらに祭壇の近くから緑の黒曜石で作られた投槍の穂先が見つかったのですが、その素材と形状はテオティワカン独自のものでした。
加えて、祭壇の内部に座った姿勢で埋葬された子供の遺骨が見つかりましたが、これもティカルではほぼ見られない埋葬形式であり、テオティワカンでは一般的なものだったのです。
これらの物的証拠から、ティカルの祭壇はテオティワカンからやってきた職人が作った可能性が高いと見られています。

かねてより、ティカルとテオティワカンとの間には交易や文化交流があったことが知られていました。
ただし、両者の交流は常に平和的なものだったわけではありません。
その関係性が一変したとされるのが、西暦378年に起こった「エントラーダ(Entrada)」と呼ばれる事件です。
この年、テオティワカンの高官がティカルに到来し、当時の王を強制的に廃し、自分たちの選んだ新王を勝手に擁立して、傀儡(かいらい)政権を作ったことが石碑に記されています。
そのため、この祭壇が作られた時期はちょうどティカルとテオティワカンの仲が悪かった時期であり、祭壇もテオティワカンの人々によって強制的に作られたのかもしれません。
しかし今回のような古代文明の遺構が良好な保存状態で見つかるのは、非常に貴重なことです。
こうした考古学的遺物の調査から、謎に包まれた過去の人類史もより詳しく明らかになっていくでしょう。
参考文献
In Guatemala, painted altar found at Tikal adds new context to mysterious Maya history
https://www.brown.edu/news/2025-04-08/altar
Archeologists find ancient child remains inside Maya altar
https://www.popsci.com/science/mayan-altar-tikal/
元論文
A Teotihuacan altar at Tikal, Guatemala: central Mexican ritual and elite interaction in the Maya Lowlands
https://doi.org/10.15184/aqy.2025.3
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部