ポーランドの湖から「中世の槍」を発見、貴族の所有物か

ポーランド中部に位置するレドニツァ湖の水底から、約1000年前の中世ポーランドを生きた戦士たちの武器が次々と姿を現しています。

調査を進めたのは、同国ニコラウス・コペルニクス大学(UMK)の水中考古学チーム。

今回、新たに4本の槍が引き上げられ、そのうち1本は金・銀・青銅で装飾された極めて豪華な槍で、公爵や貴族の所有物だった可能性があるといいます。

なぜ湖の底に沈んでいたのでしょうか?

目次

  • 湖底に眠っていた「大量の武器」の正体
  • 武器はなぜ湖に沈んでいるのか?2つの仮説

湖底に眠っていた「大量の武器」の正体

レドニツァ湖は、初期ポーランド国家を築いたミェシュコ1世や勇敢王ボレスワフ1世が支配した時代、その中心地として栄えた城塞オストルフ・レドニツキを囲む湖です。

UMKのダイバーたちは40年以上にわたり湖底を調査してきましたが、その成果はまるで“武器の博物館”ともいえるものでした。

これまでに145本の斧、64本の槍先、8本の剣が回収され、今年さらに4本の中世槍が追加されています。

4本の槍はいずれも10〜11世紀頃のもので、それぞれが異なる役割や持ち主を示していました。

最も小ぶりな槍先は菱形で、約2.1メートル分のトネリコ材の柄が残っていました。

槍先の末端には鹿角で作られたリングが付いている珍しい構造で、完全な形が残る例は非常に少ないと研究チームは説明します。

【発見された槍の画像がこちら

2本目は葉のように細くしなやかで、初期中世ヨーロッパで広く用いられた“ヤナギ葉型”の典型的な槍先でした。

周辺から同型の槍が複数見つかっていることから、この地域に高度な工房が存在していた可能性も示唆されています。

3本目は最も長く、三角形の断面をもち、柔らかい低炭素鋼と硬い高炭素鋼を何度も鍛接してつくる「パターン溶接」で製造されていました。

これは当時のヨーロッパでも最高レベルの技術で、戦闘に優れた強度を持つとされています。

そして研究者の目を最も引いたのが、4本目の豪華な槍です。

金、銀、青銅などの金属で覆われ、渦巻き模様や三つ巴文様など、精密な装飾がびっしりと彫り込まれていました。

槍先の基部には“翼”状の突起が付き、特別な象徴性をもつ武器であったことを思わせます。

研究者たちは、この槍が「儀礼的な地位の象徴」であったか、あるいは「高位の戦士や貴族に属したもの」であった可能性が高いと述べています。

実際、この装飾レベルの武器がオストルフ・レドニツキから見つかったことは、この地域が政治的・象徴的に極めて重要な拠点だったことを裏付けます。

武器はなぜ湖に沈んでいるのか?2つの仮説

では、なぜこれほど多くの武器が湖底に残されているのでしょうか。研究者たちは主に2つの説を検討しています。

● 仮説①:中世の戦いで「湖に落ちた」

11世紀半ば、ミェシュコ2世の死後にピャスト朝は深刻な混乱に陥りました。

この混乱を狙い、チェコのブレチスラフ公が侵攻し、グニェズノを略奪、さらにポズナンやオストルフ・レドニツキの城も襲撃したと記録されています。

この戦闘の中で、島と本土をつなぐ橋や、戦闘中の船から武器が湖に落ちた可能性があります。

現地の地形を考えると、湖上の交通手段は船であり、橋は戦闘の主要な舞台になりやすかったため、武器が水中に残される状況は十分に考えられます。

【こちらは調査中のチームの様子です】

● 仮説②:神々への「儀式的な奉納」

もう1つの説は、武器が意図的に湖へ投じられたとするものです。

古代から中世にかけて、ヨーロッパの広い地域で「水は死者の世界への門」と考えられ、武器や宝物を湖に沈める儀礼が存在していました。

レドニツァ湖周辺では、キリスト教への改宗が進む一方で、異教的な習俗も長く続いていました。

豪華な槍のような高価な品が湖に沈められたことは、信仰的な意味を持つ儀式だった可能性を示します。

研究者たちは両方の可能性を慎重に検討しており、「湖底の武器庫は歴史的事件と精神文化の両方の痕跡なのかもしれない」と述べています。

さらに現在、槍の金属成分を調べるマクロX線蛍光分析や、金属の同位体解析、さらにはX線CTによる内部構造の調査が進められています。

これらの研究により、槍がどこで作られ、どのような人物に属していたのかがより詳しく分かると期待されています。

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参考文献

Medieval spear pulled from Polish lake may have belonged to prince or nobleman
https://www.livescience.com/archaeology/medieval-spear-pulled-from-polish-lake-may-have-belonged-to-prince-or-nobleman

Podwodny arsenał Ostrowa Lednickiego
https://portal.umk.pl/pl/article/podwodny-arsenal-ostrowa-lednickiego

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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