ビフィズス菌の摂取で、肌のシミが目立ちにくくなる可能性

最近、「腸活」という言葉をよく耳にします。

ヨーグルトやサプリメントで腸内環境を整えると、便通が良くなり、肌まで明るくなる――そんな話を聞いたことがある人も多いでしょう。

けれど本当に、腸の状態が肌にまで影響するのでしょうか。

この素朴な疑問に答えようとしたのが、日本の順天堂大学大学院(Juntendo University Graduate School of Medicine)と森永乳業株式会社(Morinaga Milk Industry Co., Ltd.)の共同研究チームです。

研究チームは、健康な女性を対象にビフィズス菌(Bifidobacterium breve)M-16V株を12週間摂取してもらい、その肌の変化を分析しました。

その結果、冬場に悪化しやすい「シミ」や「毛穴」のスコアが、ビフィズス菌を摂取したグループで目立ちにくくなる傾向が確認されたのです。

これまで“お腹の健康”のイメージが強かったビフィズス菌が、肌の見栄えにも関わっている可能性が示されたというのは興味深い結果です。

この研究の詳細は、2025年9月に科学雑誌『Nutrients』に掲載されています。

目次

  • 腸の調子が肌の調子を左右する?
  • シミと毛穴が「目立ちにくく」なった理由とは?

腸の調子が肌の調子を左右する?

私たちの腸の中には、数百兆もの微生物がすみついています。

これらの腸内細菌は、食べ物の消化や免疫のバランスに深く関わり、私たちの健康を支えています。

近年の研究では、こうした腸内環境の乱れが肌トラブルにも影響していることが分かってきました。

たとえば、アトピー性皮膚炎やニキビなどの炎症性の肌疾患を持つ人では、腸内の善玉菌が少ないという報告があります。

そのため腸内環境のバランスが崩れると、体内で炎症を促す物質が増え、結果的に肌のバリア機能を弱める可能性があると考えられています。

このように、腸と肌は離れていても密接に結びついており、「腸皮膚相関(gut-skin axis)」と呼ばれる考え方が注目されています。

とはいえ、「健康な人の肌」に対して腸内環境がどの程度影響するのかは、これまで十分に検証されていませんでした。

そこで、順天堂大学と森永乳業の研究チームは、腸内の善玉菌を増やすことで肌の見た目に変化が起こるのかを検証する臨床試験を実施しました。

研究には、30〜79歳の健康な日本人女性120名が参加しました。

参加者をランダムに2つのグループに分け、片方には森永乳業が保有するビフィズス菌M-16V株を、もう片方には成分の入っていないプラセボ(偽の試験食)を12週間に渡って摂取してもらいました。

試験は東京の秋から冬にかけて行われ、乾燥や寒さによって肌状態が悪化しやすい時期を選んで実施され、肌の状態は、高精度の撮影装置VISIAシステムで評価しています。

この装置は、顔のシミ(brown spots)や毛穴(pores)、しわ(wrinkles)、赤み(redness)などを数値化し、見た目の変化を客観的に測定できます。

このスコアは0〜100点で、数値が低いほど肌状態が良いことを意味します。

また、便と肌のサンプルを採取して、腸内細菌や肌表面にすむ微生物(細菌・真菌)の構成も解析しました。

こうして、「腸の変化」と「肌の変化」を同時に追跡するという実験が行われたのです。

シミと毛穴が「目立ちにくく」なった理由とは?

12週間の試験を終えてデータを比べたところ、ビフィズス菌を摂取したグループと摂取していないグループのあいだで、明確な違いが見られました。

冬の乾燥が厳しくなるにつれて、プラセボ(偽の試験食)を摂取した人たちは、8週目の時点から肌の状態が悪化しはじめ、12週目にはさらに進行していました。
一方で、ビフィズス菌M-16Vを摂取したグループでは、悪化の始まりが遅く、12週目になっても変化がごくわずかでした。

つまり、季節的に避けられない肌の衰えを、「遅らせて、軽くした」という結果です。

さらに、シミ(brown spots)を詳しく見ると、摂取4週目と8週目でプラセボ群よりも明らかに少ないことが分かりました。
毛穴(pores)についても、ビフィズス菌を摂取した人の肌では4週目・8週目・12週目と少しずつ改善が見られ、摂取していないグループにはほとんど変化がありませんでした。

特に50歳未満の女性では、シミの改善がより顕著で、試験期間を通じて肌の明るさが維持されていたことが確認されています。

ただ乾燥やしわ、赤みなどの項目については、どちらのグループにも大きな差は見られませんでした。赤みに関してはマスクの刺激が影響した可能性も考えられるようです。

腸内の変化が肌に届くまで

便の分析では、ビフィズス菌M-16Vを摂取したグループで、腸内のBlautia(ブラウティア)属が増えていることが分かりました。

この菌は腸内で短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids)という代謝物を作り、腸の炎症を抑える働きを持ちます。

そのため短鎖脂肪酸が血液を介して全身に広がり、肌の炎症や酸化ストレスを和らげた可能性が考えられます。

肌の表面の微生物には大きな変化は見られなかったため、今回の結果は、腸内環境が整うことで体全体のバランスが変化し、その影響が肌にも表れたと考えられます。

また、便秘ぎみの参加者では、ビフィズス菌M-16Vを摂取したときに肌のきめや毛穴の改善がよりはっきり見られました。これは、便秘があると腸内で有害な代謝物がたまりやすく、それが血流を通じて肌の乾燥やくすみを悪化させるためと考えられます。

そのため、もともと腸内環境の乱れが大きい人ほど、ビフィズス菌による腸内の改善が際立ち、肌の改善も強く表れたのでしょう。

ビフィズス菌は“肌の老化サイクル”に関係する?

シミは紫外線や加齢、ホルモンの変化で起こる色素沈着です。

特に体内で炎症が続くと、メラニンという色素が過剰に作られ、沈着しやすくなります。

今回の結果は、腸内環境が整うことで炎症のもとが減り、メラニンの沈着を抑える可能性を示しています。

ただし、今回の試験では炎症マーカーやホルモンを直接測っていないため、この仕組みはあくまで仮説です。

今後は、血中サイトカインや皮膚バリアの指標を合わせて検証する必要があります。

腸内環境の改善がスキンケアの常識になる?

今回の研究は、森永乳業が保有する菌株を使った産学連携の共同研究でした。

本研究は順天堂大学大学院と森永乳業の共同研究部門で実施されましたが、資金提供企業は試験計画、データ収集・解析、解釈、論文執筆に関与しない旨が明記されています。

ただし、今回の結果は見た目のスコアに基づくもので、シミそのものの発生を防ぐ効果を証明したわけではありません。

対象が日本人女性に限られ、単施設・12週間という条件で行われた点も踏まえる必要があります。

今後は、血中ホルモンや皮膚の水分保持などの指標を組み合わせた分析によって、より深いメカニズムの解明が期待されます。

それでも、今回の研究は「飲むスキンケア」という新しい考え方を現実に近づけた意義ある報告です。

腸を整えることで、肌の明るさやハリを守る――そんな“体内からの美肌づくり”が、近い未来の新常識になるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

ビフィズス菌の摂取が、成人女性の顔の皮膚に現れる褐色斑などの皮膚の劣化を抑制する可能性を確認
https://www.juntendo.ac.jp/news/24904.html

元論文

Imaging and Microorganism Analyses of the Effects of Oral Bifidobacterium breve Intake on Facial Skin in Females: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study
https://doi.org/10.3390/nu17182976

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました