長年にわたり、天文学者たちは宇宙初期の「第一世代の星」、つまりビッグバン直後の原始的な星々の発見を目指してきました。
そして今回、ついにそれを見つけた可能性が出てきました。
米トレド大学(University of Toledo)の研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が以前に観測した遠方銀河のデータを詳細に解析。
その結果、宇宙のごく初期段階に誕生した、いわゆる「種族III(Population III/Pop III)」と呼ばれる星々を発見した可能性が高いと報告しました。
研究の詳細は2025年10月27日付で科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されています。
目次
- ビッグバン直後に誕生した「種族III」とは?
- 今後の展開は?
ビッグバン直後に誕生した「種族III」とは?
種族IIIの恒星は、ビッグバン直後に残された「ヘリウム」と「水素」、そしてごくわずかな「リチウム」だけで構成されていると考えられています。
これらの星は、宇宙誕生から約2億年後という非常に早い時期に形成されたと推定されています。
種族IIIは非常に希少で、すでに太古の昔に寿命を終えて消滅したと考えられていますが、科学者たちはこれらの遠くかすかな星々の光が、観測可能なのではないかと考えてきました。
これまでに種族IIIの候補とされた天体はいくつかありましたが、その形成や性質に関する3つの主要な理論的予測をすべて満たしていないため、いずれも除外されてきました。
具体的には、
1:小さなダークマターの塊で形成されていること
2:極めて大質量であること
3:小さな星団として形成されていること
という3つの条件です。
そして研究チームは今回、この3条件をすべて満たした天体を観測したと報告しています。
第一に、チームが観測した遠方銀河「LAP1-B」のデータにおいて、種族III候補となる天体は、事前の予想通り「太陽質量の約5000万倍のダークマター塊」の中で形成されていました。
また、星の質量が非常に大きく、太陽の10倍から1000倍にも及んでいます。
これらの巨大な星々は集団で存在していますが、その集団も合計で数千個分の太陽質量程度という「小規模な星団」としてまとまっており、これも3つ目の理論予測と一致します。
研究者たちは「LAP1-Bは、古典的な3つの主要な理論的予測すべてに一致した、初の種族III候補だ」と記しています。
さらなる証拠となるのが、LAP1-Bを取り巻くガスのスペクトル(波長)に、特徴的なサインが見られ、金属元素(天文学ではヘリウムより重い元素を総称して「金属」と呼ぶ)がごくわずかしか含まれていない点です。
これは「系が非常に若く、最初期に誕生した大質量星のいくつかが最近超新星爆発を起こし、こうした初期元素でガスを“汚染”したばかりである」というシナリオと合致します。
今後の展開は?
とはいえ、今回の研究はきわめて有望なものですが、種族III発見の「決定的証拠」と断定するにはまだ至っていません。
たとえば、「最初の超新星がどれだけの物質を放出したのか」や、「現在のコンピューターモデルが初期宇宙の物理現象をどれほど正確に再現できているか」など、いくつかの不確実性が残されています。
ただし、そうした最終確認を待つ間にも、今回の観測結果は重要な情報源となるでしょう。
たとえば、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と「重力レンズ効果」を組み合わせた観測手法(今回のLAP1-B発見もこの方法による)を使えば、今回の発見が“始まり”にすぎない可能性もあります。
チームは「LAP1-Bは、銀河団による重力レンズを利用した種族III研究の“氷山の一角”かもしれない」とも付け加えています。
参考文献
Astronomers may have found the first stars that formed after the Big Bang
https://phys.org/news/2025-11-astronomers-stars-big.html
元論文
LAP1-B is the First Observed System Consistent with Theoretical Predictions for Population III Stars
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ae122f
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
